音声情報を聴いた聴取者が、他の視覚的なメディア広告を思い起こす『イメージャリー・トランスファー効果』。
効果を発揮させる方法や具体的な活用例、ほかに音声メディアによって誘発される心理効果などについて解説しています。
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『イメージャリー・トランスファー効果』とは?
『イメージャリー・トランスファー効果』とは、音声情報を聴いた聴取者が、他の視覚的なメディア広告を思い起こす効果のことです。
主に広告業界で用いられている用語であり、特にラジオCMはこの『イメージャリー・トランスファー効果』が強い傾向にあるとされています。
「イメージャリー(imagery)」とはイメージ・映像などを意味し、「トランスファー(transfer)」は転送・転移などを指す言葉です。
ラジオCMを聴いた際、テレビCMなどの他のメディア媒体の広告を視覚的に想起させることで相乗効果が生まれ、購買意欲を具体的に上げる効果が期待できます。
ラジオ広告の最近の傾向
株式会社電通の調査結果(※)を見てみると、ラジオ広告費はマスコミ4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の中で唯一増加しています。
業種別では、コロナ禍からの回復を受けて「ファッション・アクセサリー」、「外食・各種サービス」、「化粧品・トイレタリー」といった業種が大きく伸長しています。
※:「2022年 日本の広告費」解説――過去最高を15年ぶりに更新する7兆円超え。インターネット広告は3兆円を突破
2010年にサービスを開始した「radiko(ラジコ)」や、2021年ころに注目された「Clubhouse」、「X Spaces」などの登場やポッドキャストなどによって、スマホやパソコンでラジオが聴ける環境の広がりとともに、聴取者(リスナー)が増加している傾向となっています。
ラジオ広告のターゲット層や、効果測定方法、出稿料などについては、こちらの記事をご覧ください。
『4大マスメディア』と呼ばれる、新聞、雑誌、テレビ、ラジオの媒体それぞれの最近の傾向と、現場のマーケターの目線で把握しておきたいポイント、「広告出稿して効果が出るのか」という視点を踏まえて解説しています。
イメージャリー・トランスファー効果を発揮させる方法とは?
ラジオ広告でイメージャリー・トランスファー効果を発揮させるためには、『他のメディア媒体と組み合わせる』ことが必要になります。
例を挙げると、Aさんは、テレビである特定の企業のCM(コマーシャル)を頻繁に見て記憶していました。
そこで、ラジオから同じ企業のCMが流れてきた時に、それを聴いたAさんが、テレビで頻繁に見ていたCMの映像を思い起こす、これがイメージャリー・トランスファー効果です。
音声のみのメディアであるラジオのCMであっても、Aさんのように聴く人によっては、テレビCMとの相乗効果により、映像を見るのと同等の効果を得ることが期待できます。
ラジオ広告とどのメディア媒体を組み合わせればよいのか?
『他のメディア媒体と組み合わせる』、つまりクロスメディア展開することで、イメージャリー・トランスファー効果を発揮させやすくなりますが、組み合わせるメディアはどんな媒体でも良いかというとそうではありません。
上述のイメージャリー・トランスファー効果が発揮する例は、ラジオという「音で表現するメディア」と「映像(+音声)メディア」であるテレビとの組み合わせによってですが、これはテレビが「有音メディア」なので相乗効果が生じたと考えられます。
そのため、ほかの4大マスメディアと呼ばれる『雑誌』や『新聞』は「無音」のメディアであるため、トランスファー(転送)効果が生じにくく、消費者に対して購買意欲を高めるような想起機会の創出にはなりにくいと言えます。
ですが、『雑誌』や『新聞』といった無音メディアであっても、インパクトのある「ワード」や「フレーズ」を用いることで、受け手である消費者の脳内で有音化してもらえれば、トランスファー(転送)効果が生じる可能性は高まります(インパクトをいかに生み出すかが難しいところですが・・・)。
とはいえ、単純に「ラジオ広告を出稿する際にはテレビ広告も出稿すればいい」という話にはなりません。
前提条件として、ラジオ広告に接触する前に「テレビCMを記憶してもらう」ことが必要になります。認知されやすい・印象に残りやすいテレビCMを発信しなければ、ラジオCM効果は限定的に留まってしまいます。
つまり、ラジオ広告でイメージャリー・トランスファー効果を発揮させるためには、①認知されやすい・印象に残りやすい「映像(+音声)メディア」であるテレビCMを組み合わせる、もしくは②インパクトのある「ワード」や「フレーズ」を用いた印刷媒体を組み合わせることで、トランスファー(転送)効果を発揮させやすくなります。
イメージャリー・トランスファー効果の具体的な活用例
アルコール飲料を取り扱う大手メーカーを想起させる音楽を、駅の発車メロディに用いたケースが例として挙げられます。
新橋駅の「ウイスキーが、お好きでしょ」
東京都港区のJR新橋駅では、2010年7月~8月の1か月限定で、現:サントリーホールディングス株式会社の「サントリー角瓶」のCMソング「ウイスキーが、お好きでしょ」が発車メロディーに使われていました。
「酒場の聖地」のイメージがある新橋で、発車メロディにCMソングを流したいというJR東日本への提案をきっかけに、安全上問題がないことを確認して実現したと言われています。
「発車メロディを聴いてテレビCMを想起させる」というこのケースは、イメージャリー・トランスファー効果を利用した施策と言えます。
恵比寿駅の「第三の男」のテーマ曲
東京都渋谷区のJR恵比寿駅では、サッポロビール株式会社の「ヱビスビール」のCMソングであるイギリス映画の「第三の男」のテーマ曲が発車メロディに使われています。
かつて恵比寿には日本麦酒醸造(現:サッポロビール株式会社)の工場があり、駅は工場から出荷されるビールを発送するための貨物駅としてつくられました。
そういった経緯もあり、商品名の「ヱビスビール」から駅の名称がつけられ、のちに地名にもなり、周辺はヱビスビールとともに発展を遂げました。
現在、工場は移転しましたが、地元の商店街などからの要望があり、発車メロディに使われることになりました。
「ヱビスビール」に所縁のある恵比寿駅は、構内の壁面はレンガ調で、ホームの照明はヱビスビールのグラスを模したデザインとなっていて、2022年には鉄道開業150周年を記念し、期間限定で東口に「ヱビスビール口」の愛称がつきました。
イギリス映画の「第三の男」は1952年に日本で公開されたこともあり、今では知らない世代も多くなっていますが、CMの想起効果に大きく貢献しています。
生麦駅の「若いって素晴らしい」
神奈川県横浜市にある京浜急行電鉄の生麦駅では、キリンビール株式会社の「一番搾り」のCMソング「若いって素晴らしい」が発車メロディに使われています。
生麦駅周辺にはキリンビールの横浜工場があり、「若いって素晴らしい」が2009年からキリンビールの主力商品である「一番搾り」のCMソングになっていることから選定されました。
CMで流れる耳慣れた曲を使って生麦駅に親近感を演出し、「キリンビール横浜工場の最寄り駅」という認知度を高める目的もあります。
ラジオ広告により促される心理効果
ちなみに、イメージャリー・トランスファー効果のほかにも、ラジオ広告によって誘発される心理効果がいくつかあります。
押し上げ効果
『押し上げ効果』とは、単体の媒体での広告展開よりも、複数の広告媒体を利用した方が、商品やサービスの認知度が通常よりも上昇する効果のことです。
広義の意味では『イメージャリー・トランスファー効果』と近しい効果と言えますが、例えばテレビCMや街頭広告のみの打ち出しではなく、ラジオ広告も併せて出稿することで、認知度をブーストさせる効果が期待できます。
リーセンシー効果
『リーセンシー効果』(※)とは、購買の直前に接触した広告が消費者心理に与える影響を意味します。
つまり、消費者が直前に見たり聞いたりした広告が、購買行動に影響を与える効果のことです。
例えば、買い物に行くまでの間に聴いていたラジオで取り上げられていた商品を、店舗で思わず購入するといったケースが挙げられます。
※『リーセンシー効果』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
購買の直前に接触した広告が消費者心理に与える影響を意味する『リーセンシー効果』。由来や発祥から、「リーセンシー」の意味、活用例や類似する心理事象について解説しています。
まとめ
音声メディアであるラジオは、何かをしながら聴くという「ながら聴き」をする傾向があります。そして、音声による「刷り込み効果」は長期記憶に強いこともポイントと言われています。
そんなラジオのCMという音声広告において、音声情報を聴いた聴取者が、他の視覚的なメディア広告を思い起こす『イメージャリー・トランスファー効果』を期待することができます。
また、テレビCMや街頭広告と併せて出稿することで、認知度をブーストさせる効果が期待できる『押し上げ効果』や、直前に見たり聞いたりした広告が、購買行動に影響を与える『リーセンシー効果』も消費者に購買を誘発させることを期待できます。
BtoB(企業間取引)の中小規模企業において、広告を出稿する身近なメディアとは言い難いところがありますが、アプローチしたいターゲットが合致するのであれば、今後選択肢の一つとしてラジオ広告を考えても良いかもしれません。
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