悪条件を「後出し」されても受け入れてしまう!?『ローボール・テクニック』

まず相手に好条件を提示し、承諾してもらった後に不利な条件を付け加える『ローボール・テクニック』
発生するメカニズムと活用例(遭遇シーン)、不向きなビジネスや活用法と対処法などについて解説しています。

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後出しで悪条件を付け加える『ローボール・テクニック』

承諾してもらった後に不利な条件を付け加える手法

『ローボール・テクニック』とは、まず相手に好条件を提示し、承諾してもらった後に不利な条件を付け加える手法のことです。

相手が認めやすい提案をして、承諾したら次々とオプションを要求していく方法です。

この「ローボール」とは、捕球しにくい「高いボール(High Ball)」ではなく、受け取りやすい「低めのボール(Low Ball)」=「誘い球」から由来が来ています。

フット・イン・ザ・ドア』『ドア・イン・ザ・フェイス』と合わせて、3大交渉テクニックと言われています。

効果を証明した実験

2段階での依頼の有効性を可視化した実験とは?

『ローボール・テクニック』(2段階の依頼の有効性)の実証実験として、アメリカの心理学者のフリードマン 氏 とフレイジャー 氏 が行った実験が有名です。

ランダムに抽出した主婦156人に「消費者団体」と名乗って電話をかけ、調査を依頼。

2回に分けて依頼する場合と、1回の電話で依頼を済ませる場合とで、違いが出るのかを実験しました。

  • 1回目の電話:「消費者向けのパンフレット作成のために、家庭用品に関する調査に協力してもらえませんか」と伝え、承諾してくれたら「石鹸」について質問をする。
  • 3日後に2回目の電話:「5名~6名の調査員がお宅へ出向いて2~3時間かけて家庭用品に関する調査をするのに協力してもらえませんか」と依頼する。

頼みごとはまず小さなことから切り出すと成功率が高まる

その結果、1回目の電話で協力依頼を承諾して「石鹸」に関する質問に答えた人は、2回目の面倒な依頼に対しても、過半数が承諾しました。

一方で、1回目の電話でいきなり2番目の面倒な依頼をした場合では、協力を得られたのは全体の4分の1程度でした。

この実験から、「いきなり面倒な(大きな)ことを頼むと断られる可能性が高いが、まず許容しやすいことを頼み、それに応じてくれた人に対してもっと大きな要請をすると、応じてくれる可能性が高まる」ということが明らかになりました。

『ローボール・テクニック』が効果を発揮するメカニズム

「一貫性を持たせたい」という人間の心理が作用している

この『ローボール・テクニック』は、『一貫性の原理』によって生じるとされています。

人間には元々、自身の行動や発言、態度や信念などについて「一貫性を持たせたい」とする『一貫性の原理』が作用しやすい性質があります。

つまり、無意識のうちに自身の言動や態度に「一貫性を持たせよう」とする『一貫性の原理』によって、「一度相手の要求を承諾したのだから(一貫性を持たせようとして)次の要求にも承諾しなければ」という判断をしてしまう、というわけです。

『イエスセット(イエス誘導話法)』

要求の度合いが上がっても「ノー」と言えなくなってしまう

ちなみに、『一貫性の原理』を用いた交渉テクニックには『イエスセット(イエス誘導話法)』も有名です。

『イエスセット』とは、何度も賛同(Yes)の態度を示すと、反対意見(No)を言ったり、反論をしづらくなる心理的傾向のことです。

この、意図的に相手の答えが「イエス」となるような質問を織り込んだやり取りは、セールスシーンなどで活用されています。

『フット・イン・ザ・ドア』

段階を踏むことで要求や依頼を承諾しやすくなるテクニック

『一貫性の原理』を用いた交渉テクニックには、『フット・イン・ザ・ドア』も該当します。

『フット・イン・ザ・ドア(Foot in the Door)』とは、最初にハードルの低い要望を受け入れることで、次の段階でより大きな要望を受けたとしても、負担を(それほど)感じることなく受け入れてしまうというテクニックです。

2つの交渉テクニックの違いとしては、承諾後に「悪条件を明かす」のが『ローボール・テクニック』で、承諾後に「追加の要求をする」のが『フット・イン・ザ・ドア』です。

『フット・イン・ザ・ドア』のより詳しい内容については、こちらのページをご覧ください。

『ローボール・テクニック』の活用例

消費者・受け手側の視点での活用シーン(遭遇シーン)

この『ローボール・テクニック』は、特にBtoC(企業対一般消費者間取引)の場面で、たびたび活用されています。

「みんなで飲み会に行こう」と誘われたが・・・

「みんなで」と言われたものの・・・

まず身近な例を挙げます。

「今度、みんなで飲みに行こう」と誘われOKしたが、当日になって「急に都合が悪くなったみたいで、2人だけになっちゃいそうだけど大丈夫?」と言われ、一度行けると言ってしまったので断りづらく行く流れになってしまうケース。

割引クーポンが届いたから来店したが・・・

割引クーポンをもらって来店したものの・・・

スマホアプリにクーポンが届いたことをきっかけに飲食店に来店したところ、そのクーポンが使えるメニューが売り切れていた際、「せっかく店に来たし・・・」としぶしぶ別メニューを注文してしまう、というケースが例として挙げられます。

「他社からの乗り換えなら無料」と聞かされたが・・・

スマホを他社品に買い替えようとしたところ・・・

スマートフォンを買い替えようとした際に、「他社からの乗り換え無料」と謳っていたため契約したが、販売スタッフから契約後に解約する際に違約金が発生することなどを伝えられる、というケース。

「簡単な」アンケートに答えるだけだと思ったが・・・

簡単なアンケートだけでなくパーソナルな情報も求められてしまう・・・

身近なケースと断定しづらいところではありますが、新橋のオフィス街で女性から「簡単なアンケートに答えていただければ、2,000円分のクオカードをお渡しします」と声をかけられ引き受けたところ、「(電話番号や住所などの)個人情報も答えていただけないと、クオカードをお渡しできません」と言われ、しぶしぶ記入してしまう

※その後、アンケートに記入した電話番号に「不動産売買」についての勧誘がかかってくるケースがあるため、注意が必要です。

特に『ローボール・テクニック』の活用が不向きなビジネス

稟議制度がネックに

特に『ローボール・テクニック』の活用が不向きなビジネスは、『BtoB(企業対企業間取引)』です。

理由としては、BtoBでは一定金額以上の商品・サービスを購入・導入する際には「稟議」にかけて承認を得る必要があるからです。

そのため、契約後に「後出し」で追加費用を求めるような提案をすると、担当者からすると改めて稟議承認を得なければならないため、嫌がられることも。

継続的・長期的な関係性を築く必要のある『サブスク』にも不向き

ほかにも、『サブスクリプション』というビジネスモデルも不向きと言えます。

なぜなら、仮に『ローボール・テクニック』を用いて契約できたとしても、契約後に何らかの「悪条件」を伝えられたことで消費者側は「騙された」と感じています。

そのため、継続的な顧客満足は得られず、『顧客ロイヤリティ』や『LTV(顧客生涯価値)』の向上を望むことができないからです。

特に、顧客との継続的・長期的な関係性を築く必要のあるビジネスモデルには「不向き」と言えます。

『サブスクリプション』のより詳しい内容については、こちらのページをご覧ください。

「不信感」がSNSなどで広がることになってしまう

かといって、売り切り型のBtoCビジネスであれば「向いている」かと言うと、そうとはいえません。

『ローボール・テクニック』を用いる場合、契約後に何らかの「悪条件」を伝えられたことで消費者側は「不信感」を抱くようになります。

そのため、一度きりの売り切り型の商品であったとしても、SNSの普及した現代においては、口コミなどの『UGC』によって、「不信感」がSNSなどネット上に広まることになります。

『UGC』のより詳しい内容については、こちらのページをご覧ください。


この続きでは、『ローボール・テクニック』の活用法と対処法について解説しています。

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