支援会社での実体験をベースに『現場レベル』で納期が遅れてしまう理由と、「納期」と「クオリティ」の関係性をあらわす指標である『QCD』、「納期を遅らせてでもクオリティを優先させるべきか?」に対する最適解と納期を遅らせずに最高のクオリティで納品する方法について解説しています。
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「納期を遅らせて最高のクオリティにしたい」ってアリですか?
支援会社である制作会社で広告営業 兼 ディレクター職に従事していた際、PCメーカー様から定期的に販促誌の制作依頼をいただいておりました。
その定期的に発行されていた販促誌は、毎号「著名人とPC」を紐づけて、著名人の取材・撮影→PCの撮影・スペック紹介の流れで誌面を構成していました。
とある号で「九州の離島出身のアーティストに出身地でPCをまじえて撮影させてもらう」機会がありました。
もちろん、社内のデザイナーと外注のカメラマン・ライターとは事前に打ち合わせていましたが、天気予報では撮影当日晴れるかどうかは微妙。
そんな中、晴天のAパターンと曇天・雨天のBパターン両方の撮影場所とイメージカットを想定し、それぞれ撮影前日にロケハンとして現地へ赴きチェックをしていきました。
幸い撮影当日は晴天に恵まれ、大きなトラブルなく撮影を終えることができました。
滞りなく制作素材が揃いデザインが開始できましたが・・・
アーティストさんの取材原稿もライターから上がり、カメラマンから撮影データも届き、予定通りのスケジュール感で誌面のデザインを開始。
しかし、制作素材はすべて手元に揃っていたものの、納期までにデザイナー的に「納得のいく」形に落とし込むことができず、「当初の納期を遅らせて時間を確保して最高の内容を提案したい」と要望が。
クライアントの窓口である営業の私は、「納期を優先して間に合うレベルのクオリティの成果物を提出するか」「クライアントに打診して納期を伸ばしてデザイナーの納得のいくレベルの成果物を制作するか」という、「納期とクオリティのどちらを優先させるか?」という判断に迫られることになりました。
そのデザイナーと議論をせずとも答えは出ていて「当たり前」だと考えていた優先順位が、職種によって異なることがその時わかり、調整に苦労したという経験があります。
この記事では、『現場レベル』で納期が遅れてしまう理由と、「納期(デリバリー)」と「クオリティ(品質)」の関係性をあらわす指標である『QCD』を踏まえつつ、「納期を遅らせてでもクオリティを優先させるべきか?」に対する最適解と、「納期を遅らせずに最高のクオリティで納品する方法」について解説しています。
『現場』において「納期」が遅れてしまう理由
冒頭のケースでは、「最高のクオリティ(品質)の成果物を納品したい」と意図して納期を遅らせたいというパターンですが、一般的に「Delivery(納期)」の遅れは、受注側(コントラクター・サービス提供者)、発注側(クライアント)それぞれ、もしくは両方の要因・原因によって生じることになります。
具体的には、以下のようなパターンが考えられます。
受注側の原因:案件ボリュームに対する事前の見込みが甘い
案件を手掛ける前の段階で見通しが甘いため、「Delivery(納期)」に間に合わないというケース。
見通しが甘くなる理由としては、成果物をアウトプットするデザイナー側の観点であれば「アイデアや考えがまとまらない」、「進行してみると思っていたよりも時間がかかりそう」、案件をハンドリングするセールス側の観点であれば「案件の全体ボリュームを事前に描けていない」、「デザイナーのスキルや性格を把握せず、抱えている他案件を考慮していない」などが要因として挙げられます。
特にデザイン領域というクリエイティブの場合、定型的に「何時間やれば完成する」というモノばかりではありません。そのため、デザイナー個々人の業務経験値に大きく左右されるため、スケジュールを敷く前に考慮することが肝要と言えます。
受注側の原因:スケジュール設定・管理が甘い
上述の「案件の全体ボリュームを事前に描けていない」につながりますが、楽観的にスケジュールを敷いてしまうことで「印刷前に修正箇所が見つかる」「クライアントから急な変更の要望がくる」といった、対応しなければならない予期せぬことを考慮していないというケースが挙げられます。
いくらチェック(校正)を何度も行っていたとしても、予期せぬタイミングで修正しなければならないことが起こってしまいます。
またデザイナーが病気になったり事故に遭ったり、親族に不幸があって急遽帰省しなければならないというケースもあります。
これらすべてを事前に考慮することは難しいのですが、予め可能な範囲で「何かあるかもしれない」ことをスケジュールに組み込んでおくことが必要になります。
受注側の原因:同時進行案件を考慮していない
このケースも上述の「デザイナーが抱えている他案件を考慮していない」につながりますが、特に中小規模の制作会社の場合、単独案件に注力できるというケースは稀で、多くは複数案件を同時並行で進行しています。
そのため、ほかに進行している案件にトラブルが発生したり、急ぎの進行が必要になる場合、「Delivery(納期)」遅延のリスクが高まることになってしまいます。
案件を担当するデザイナーがほかにどんな案件を抱えているかを把握して、忙しさを考慮することが求められます。
受注側の原因:案件内容を把握していないためリテイクが多い
このケースは、アウトプットするデザイナーも案件をハンドリングするセールスにも関わりますが、「案件内容を把握していない」「クライアントの要望をくみ取れていない」場合、クライアントからの修正箇所の指摘が増えたりすることで、「Delivery(納期)」が遅延することにつながってしまいます。
さまざまなジャンルの制作案件に携わることが多いので、詳細に理解することは難しいかもしれませんが、デザイナー・セールスともに案件商品・サービスをできるだけ理解し、クライアントの要望をどれだけ理解して進行するかがポイントになります。
受注側の原因:自己満足ともいえる「達成感」を追い求めてしまう
クライアントから「Cost(費用・予算)」を支払ってもらって成果物を納品するビジネスであれば、滞りなく進行し、最高の仕上がりの成果物を納品することが受注側の役割ですが、「Delivery(納期)」ギリギリまで追い込むことで、ある種の「達成感」を感じようとする人がいます。
「Delivery(納期)ギリギリにならないと良いアイデアが思い浮かばない」というデザイナーや、「ギリギリになってお尻に火がつかないと案件を進めない」セールス(ディレクター)だと、いくら事前に綿密なスケジュール設定をしていたとしても、「Delivery(納期)」直前にクライアントへ提出・納品することになってしまうので、予期せぬリテイクやミスに対応しようとすると締切に間に合わないということになってしまうかもしれません。
発注側の原因:そもそもスケジュールがタイト
そもそもクライアント側が時間が無い中で発注してしまうというケース。
受注するコントラクター・サービス提供者側としては、スケジュールがタイトであったとしても「断ると案件がもらえなくなるのでは」「今回は無理して引き受ければ次の案件につながるかも」と思い、請け負ってしまうことがままあります。
何とか「Delivery(納期)」を守りつつ、一定の「Quality(品質)」を担保して納品できたとしても、この経験からクライアント側は「スケジュールがタイトでも引き受けてくれる発注先」と認識してしまい、それ以降も余裕の無いスケジュール感で発注するようになってしまいます。
こういったケースを防ぐためには、窓口であるセールスはクライアントとのスケジュールの「握り」が甘くならないよう、社内・外部の協力先リソースを考慮したうえで、時に毅然と対応する姿勢が求められます。
発注側の原因:安易な修正指示が多い
まだ「Delivery(納期)」まで時間的余裕があるからと、しっかりとチェック(校正・校閲)をせずに、画像の掲載位置を差し替える・テキストを数文字削除するといった修正指示を何度もするケースがあります。
制作を引き受ける受注側とクライアントである発注側との間には「認識の違い」があります。
クライアントにとっては「こんな修正・変更、簡単でしょ?」と思うような内容だとしても、デザイナーは全体のバランスを考えて制作するケースが多いため、例え軽微な修正や変更であってもクライアントが思うよりも時間がかかることがあります。
また、軽微でも修正や変更が重なると、データが「先祖返り」してしまう可能性も生じてしまうため、都度すべてをチェックしなければならないというケースもあります。
とはいえ、クライアントからの修正・変更指示を受注側が拒否するのはNGです。例え、成果物のクオリティが低下するとしてもです。
なぜなら、成果物(納品物)に対する最終決定権はクライアントにあるからです。決定権というよりも「責任」の方が適切かもしれません。
つまり、クライアントは「ビジネスで利益を上げる」ために、費用(コスト)をかけて発注し、その成果物(納品物)を活用して販売促進などを行う「責任」の一端を担っています。
一方、案件を請け負う受注側は「成果物を納品する」責任はありますが、利益を上げる責任を負ってはいません。
仮に「修正(変更)しない内容であれば利益を上げられます」と、クライアントへ利益を保障できるのであれば別ですが。
受注側(コントラクター・サービス提供者)が、発注側であるクライアントの「利益」云々に対して、無責任な発言をすることはご法度なのです。
ですが、修正(変更)すると、情報的に間違いや矛盾が生じてしまう場合はクオリティ以前の問題なので、(細心の注意を払って)クライアントへ伝えるべきです。
発注側の原因:クライアント側で「コンセンサス」がとれていない
クライアント側で案件に複数人や高い役職の方々が関わっていたり、「こうしたい」というイメージが漠然としたままで進行する場合、途中で方向性(方針)が二転三転してしまい、すべて制作し直しの規模のリテイクが発生するケースも考えられます。
こういったケースを防ぐためには、受注側から「コンセプト」を明確に示したり、途中途中で成果物の状況を共有する、窓口であるセールスがクライアントとしっかりと関係性を構築して「握り」を強めておくといったことが対策として考えられます。
品質・費用・納期の関係性をあらわす『QCD』という考え方
納期(デリバリー)とクオリティ(品質)の関係性をあらわす指標に『QCD』があります。
『QCD』とは、Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)の頭文字を並べた言葉です。
元々はモノづくり・製造業で使われていた言葉ですが、今ではIT業界をはじめ多くのビジネスシーンでも用いられ始めている重要な要素です。
元々使われていたモノづくり・製造業では「より良い製品を満足できる価格で希望する納期までに届ける」ことが求められます。「より良く、より安く、やり早く」顧客へ提供するということです。
そのため、Q(クオリティ:品質)→C(コスト:費用)→D(デリバリー:納期)の順に、重要度が示された考え方になっています。
なぜ「Q(クオリティ:品質)」が一番重要なのか?
『QCD』は「品質:クオリティ」が最優先される考え方です。
なぜ「品質」が最重視されるかというと、顧客へ納品する商品やサービスに品質不良が生じた場合、「費用」や「納期」にも悪影響を与えてしまうからです。
製造業のケースだと、不良製品の出荷は最悪の場合、ユーザーを命の危険に晒してしまうことになります。
システム開発の場合は命の危険とまではいかないまでも、サービスの品質不良がユーザーに不利益を与えることは同じです。
バグだらけの低品質なシステムを納品することは、自社・顧客双方に不利益を招いてしまいます。そのため、『QCD』においては「費用」や「納期」よりも「品質」を重要視しているわけです。
品質基準をクリアすることは、追加費用の発生や大幅な納期遅延を防止する、という役割も果たしています。
Quality(品質)を最優先すると・・・
言わずもがな、「Quality(品質)」が低いと商品やサービスは売れません。
ですが、品質を高めるために高性能な設備を導入したり、検査項目を増やすと、製造・検査のコストが上がり利益を圧迫することになります。
また、完成品を出荷するまでに時間がかかるため、クライアントから要求された納期を守る難易度も増すことになります。
⇒「Quality(品質)」を最優先にすると・・・「Cost(費用)」アップ、「Delivery(納期)」を守るのが厳しくなる。
Cost(費用)を最優先すると・・・
「Cost(費用)」を優先する場合、発生するコストを下げるために、設備メンテナンスの頻度を減らし、検査基準を緩めるケースが考えられますが、そうすると「品質」が低下するリスクが高まってしまいます。
「品質」が低下すると、仮に「納期」が守れたとしても納品後に不具合が生じて交換したり作り直すケースがあるため、販売する商品やサービスだけでなく、企業に対する信頼性にも悪影響を及ぼすリスクがあります。
⇒「Cost(費用)」を最優先にすると・・・「Quality(品質)」が低下するリスクが高まりやすくなる。
Delivery(納期)を最優先すると・・・
「Delivery(納期)」を優先する場合、製造・制作工程に不備が生じたり、その不備を見落とすリスクが高まりやすいので、結果的に「品質」が低下する、また納期を短縮しようとして設備増強や人員を確保するためのコストが発生しやすくなります。
⇒「Delivery(納期)」を最優先にすると・・・「Quality(品質)」が低下するリスクが上昇しやすくなり、「Cost(費用)」も高まる。
クライアント(顧客)の要望をもとに社内・協力会社(外注先)の現場リソースを勘案して優先度を判断する
「Quality(品質)」「Cost(費用)」「Delivery(納期)」という3つの関係性を見てみると、どれかを優先すればほかのどれかにマイナスに作用するという「帯に長し襷に短し」の相関性を有していると言えます。
とはいえ、ビジネスにおいては、どんなに安価に提供しどんなに素早く納品できるとしても、クライアント(顧客)が要求する「品質」を満たさなければ意味を成さないので、まずは「Quality(品質)」を最優先で考えるのがベターと言えます。
といっても「Cost(費用)」「Delivery(納期)」を無視することはできないので、クライアントの要望と、社内・協力会社(外注先)の現場リソースを勘案して判断することになります。
例えば、クライアントが「Delivery(納期)」を重要視しているのであれば、多少「Cost(費用)」をかけてでも間に合わせるようにします。「予算(Cost:費用)」が確定しているのであれば、短納期での納品は優先度が下がります。
つまり、『QCD』の3要素すべてを高めることは難しいのですが、基本は「Quality(品質)」を優先して、クライアント(顧客)の要望をもとに、優先順位を考慮しバランスをとった上で、商品(製品)・サービスを顧客へ提供することが、結果的に競合他社との差別化にもつながるため重要になります。
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この続きでは、「納期を遅らせてでもクオリティを優先させるべきか?」に対する最適解と、
「納期を遅らせずに最高のクオリティで納品する方法」について解説しています。
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