段階的に「ハードル」を上げる or 下げることで有利に進める2つの交渉テクニック

心理学に根差した交渉テクニックである『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』それぞれの概要と違い、
活用する際に起こりがちな失敗例とその対策、『ローボール・テクニック』
などについて解説しています。

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交渉ゴトを有利に進めるためのテクニックとは?

心理学に根差した交渉テクニックをご紹介!

日常生活やビジネスシーンにおいて、相手と何かを交渉する際に有効なテクニックとして、『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』があります。

人間の心理作用を利用して、「小さな要求→大きな要求」、もしくは「大きな要求→小さな要求」をすることで、「本命の要求」の承諾・承認を得やすくする手法のことです。

この、『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』それぞれの概要と違い、活用する際に起こりがちな失敗例とその対策、『ローボール・テクニック』などについて解説しています。

「小さな要求→大きな要求」で承諾率アップ!?『フット・イン・ザ・ドア』

段階を踏むことで要求や依頼を承諾しやすくなるテクニック

フット・イン・ザ・ドア(Foot in the Door)』とは、最初に小さな要求を承諾すると、次の段階で大きな(本命の)要求を受けた際に承諾しやすくなる、という心理に基づいた交渉テクニックです。

つまり、相手からすると最初にハードルの低い要望を受け入れることで、次の段階でより大きな要望を受けたとしても、負担を(それほど)感じることなく受け入れてしまう、ということになります。

交渉時やセールスシーンといったビジネスでも、日常生活でも活用することができる心理テクニックとして知られ、『段階的依頼法』とも呼ばれています。

『フット・イン・ザ・ドア』のより詳しい内容については、こちらのページをご覧ください。

『フット・イン・ザ・ドア』のビジネスシーンでの活用例

セールスやマーケティングにも活用可能な心理テクニック

この『フット・イン・ザ・ドア』の代表的なビジネスシーンでの活用例は、以下のようなセールスやマーケティングの場面が挙げられます。

ビジネスシーンの例:商談時の提案

①商談時の提案

セールスマンが新規顧客候補(潜在顧客)にアプローチする際に、最初に大規模な契約や高額商品・サービスを提示してしまうと、相手は警戒心を強めて断られる可能性が生じてしまいます。

そこで、『フット・イン・ザ・ドア』というテクニックを活用して、最初に小さな提案をして受け入れてもらうことで、次第に大きな要求にも応じやすくなります。

※『フット・イン・ザ・ドア』と類似した発想で、購入しやすい集客商品をフックにして「本命商品」を販売する『バックエンド商品』という販売手法もあります。

ビジネスシーンの例:アップセルやクロスセル

②アップセルや
クロスセル

『フット・イン・ザ・ドア』はアップセル』や『クロスセルといった販売手法にも用いられています。

最初に、安価な商品やサービスのトライアルを提案し、これが受け入れられた後にグレードの高い上位商品や関連サービスを提案することで、顧客単価を上げ高い収益性を確保しやすくなります。

『アップセル』の詳細については、こちらのページをご覧ください。

『クロスセル』の詳細については、こちらのページをご覧ください。

ビジネスシーンの例:試供品や無料体験版をフックに購買を促進

③試供品や無料体験版をフックに購買を促進

BtoCであれば試供品、BtoBであればサービスの無料体験版などを提供し、商品やサービスの「良さ」や使用感を理解してもらった後に購入を促すことで、心理的ハードルが下がり購入に対して意欲的になりやすくなります。

ビジネスシーンの例:店舗の目立つ箇所にオトク商品を陳列

④店舗の目立つ箇所にオトク商品を陳列

小売業でいえば、店頭に特売品や割引商品を陳列することも、『フット・イン・ザ・ドア』の「足先」に該当します。

特売品や割引商品を「撒き餌」に客足を引き付けて、店内奥の高額商品のコーナーまでの導線を考慮し誘導することになります。

    ビジネスシーンの例:「続きはWebで」

    ⑤「続きはWebで」

    「続きはWebで」という手法も、『フット・イン・ザ・ドア』の条件を満たしています。

    インターネット検索をした人は、すでに「Webで調べる」というお願いを受け入れています。

    そして、Webの該当ページに流入してもらい、理解を深めてもらうことで購入の可能性が高まるというわけです。

    ※「続きはWebで」という未完成な情報を提示し興味をそそる心理効果を『ザイガニック効果(ツァイガルニク効果)』と呼びます。

    「大きな要求→小さな要求」でハードルが下がり引き受けてしまう!?『ドア・イン・ザ・フェイス』

    『譲歩的要請法』とも呼ばれる『ドア・イン・ザ・フェイス』

    ドア・イン・ザ・フェイス(Door in the Face)』とは、まず大きな要求を提示して断られた後に本命の小さな要求をすることで、本命の要求を受け入れてもらいやすくするテクニックのことです。

    慣用句の「shut the door in the face(門前払い)」が由来で、セールスマンが訪問販売時に「断られることを前提にドアから顔を覗かせる」という行動が由来となっており、『譲歩的要請法』とも呼ばれています。

    『ドア・イン・ザ・フェイス』のより詳しい内容については、こちらのページをご覧ください。

    『ドア・イン・ザ・フェイス』のビジネスシーンでの活用例

    汎用性の高い交渉テクニック

    この『ドア・イン・ザ・フェイス』も日常生活だけでなく、仕事の依頼やクライアントへの「価格」や「納期」交渉といったビジネスシーンにおいても活用されるテクニックです。

    ビジネスシーンでの例:社内の頼みごと

    「断ってしまって申し訳ない」という感情を抱かせる

    例えば、部下に対して急ぎの業務を対応してもらいたい場合

    • 上司「突然になって悪いけど、急ぎの案件があるから今日1時間ぐらい残業してくれるかな?」
    • 部下「いや、今日は用事があるので残業はちょっと・・・」
    • 上司「それじゃあ、30分だけでいいから対応してくれる?」
    • 部下「(30分なら何とかなるか)わかりました」

    最初に「1時間の残業」のお願いを断ったことで、部下は「断ってしまって申し訳ない」という感情が芽生えるようになります。

    その後、譲歩する形で「30分の残業」をお願いすることで、部下は受け入れやすくなります。

    ビジネスシーンでの例:商談時の「見積提案」

    あらかじめ「譲歩可能な価格」を設定しておく

    商談時の「見積提案」も例として挙げられます。

    まず、あらかじめ定価よりも低い「この価格までなら譲歩できる」という価格を設定しておきます。

    その後、顧客への見積もりを「定価価格」を提示し、顧客側が難色を示し値引きを依頼された際に、あらかじめ設定しておいた「譲歩できる価格」を提示します。

    そうすることで、顧客側は「こちらの提案が受け入れられた」と感じるようになり、交渉を有利に進めることができるようになります。

    商談の「空振り」を回避しやすくなる『ダウンセル』

    この手法は、『ダウンセル』というセールステクニックと言い換えることができます。

    ビジネスシーンでの例:取引先からの納期調整の依頼

    事前に「譲歩できる納品日時」を社内調整しておく

    商談時の「見積提案」と同様に、取引先からの納期調整の依頼時に、あらかじめ社内調整をして「譲歩できる日時」を見出しておき、取引先にはその譲歩可能な日時よりも遅めの日時を伝えます

    取引先からその日時を了承されればそれはそれでOKですが、仮に「もっと早くしてください」と要望を受けた際には、用意しておいた「譲歩できる日時」を提案することで、その日時を承諾してくれる確率が高まります。

    2つの交渉テクニックの違い

    混同しがちな『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』

    『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』の違いをまとめると、以下の点を挙げることができます。

    違い①:要求の順番

    「大きな要求→小さな要求」か
    「小さな要求→大きな要求」か

    違いの一つとして、「要求の順番」が挙げられます。

     

    • フット・イン・ザ・ドア:小さな要求→大きな要求
    • ドア・イン・ザ・フェイス:大きな要求→小さな要求

    『フット・イン・ザ・ドア』は、最初に相手が受け入れやすい「小さな要求」を提示し、それが承諾された後に「大きな要求」をしていく手法です。

    一方、『ドア・イン・ザ・フェイス』は逆に、最初にあえて「大きな要求」を提示し、相手がそれを断った後に「(本命の)小さな要求」をしていく手法です。

    違い②:起因する心理的効果

    『返報性の原理』か
    『一貫性の原理』か

    また、「起因する心理的効果」も違いの一つです。

     

    • フット・イン・ザ・ドア:一貫性の原理が起因する。
    • ドア・イン・ザ・フェイス:返報性の原理が起因する。

    『フット・イン・ザ・ドア』は、一度引き受けたことに対して「一貫性を持とう」とする心理によって、後に出される要求も受け入れやすくなる『一貫性の原理』が起因しています。

    一方、『ドア・イン・ザ・フェイス』は、最初に提示された(過大な)要求を断ったことに対して「罪悪感」や「後ろめたさ」を感じるようになり、その後に提示される(小さな)要求を受け入れようとする『返報性の原理』が起因となっています。

    それぞれ効果を発揮するケースとは?

    対象となる相手との関係性や性格に応じた使い分けがポイントに

    『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』は、対象である顧客や、顧客それぞれの性格によって使い分けることが重要となります。

    • フット・イン・ザ・ドア:まだ関係性が築けていない「新規顧客候補」や「見込み客」に有効。
    • ドア・イン・ザ・フェイス:「すでに何度も交渉をしている見込み客」や契約している「既存顧客」に有効。

    『フット・イン・ザ・ドア』は、新規顧客候補(潜在顧客)や見込み客といった、まだ関係性が築けていない場合に有効な手法です。

    一方、『ドア・イン・ザ・フェイス』は、すでにある程度の関係性を築けている、何度も交渉をしている見込み客や既存顧客に対して有効な手法です。

    後出しで悪条件を付け加える『ローボール・テクニック』

    承諾してもらった後に不利な条件を付け加える手法

    『フット・イン・ザ・ドア』のように「一貫性の原理」という心理作用を応用する手法に『ローボール・テクニック』があります。

    『ローボール・テクニック』とは、まず相手に好条件を提示し、承諾してもらった後に不利な条件を付け加える手法のことです。

    この「ローボール」とは、受け取りやすい低めのボール=「誘い球」を意味しています。

    割引クーポンをもらって来店したものの・・・

    身近な例としては、スマホアプリにクーポンが届いたことをきっかけに飲食店に来店したところ、そのクーポンが使えるメニューが売り切れていた際、「せっかく店に来たし・・・」としぶしぶ別メニューを注文してしまう、というケースが挙げられます。

    要求度がだんだん上がっても「ノー」と言えなくなってしまう

    つまり、簡単な要求(受け取りやすいローボール)に対して「イエス」と言ってしまうと、段々と高い要求をされたとしても「ノー」と言えなくなり、受け入れるようになってしまう心理作用を狙った手法です。

    『フット・イン・ザ・ドア』との共通点と違い

    承諾後に要求するか・悪条件を明かすか

    『フット・イン・ザ・ドア』と『ローボール・テクニック』は、「一貫性の原理」が起因しており、最初に受け入れやすい条件を提示して承諾を得る点は同じですが、承諾後に「追加の要求をする」か「悪条件を明かす」かに違いがあります。

    活用しない方が無難!

    「後出し」感が出るので取り扱いに注意が必要

    この『ローボール・テクニック』は、受け手からすると、ネガティブな情報を「後出し」で知ることになるため、悪質な手法として捉えられやすく、実際に詐欺行為に用いられた例もあります。

    相手からの信用を得られないばかりか、不信感を持つきっかけになってしまったり、ネガティブな印象を植え付けることになるため、活用しない方が無難と言えます。

    使われた際には警戒心を持って対応する姿勢が必要

    なので、『ローボール・テクニック』は使うのではなく、騙されないために知っておきたい手法と言えます。

    もし、『ローボール・テクニック』による説得を受けた際には、冷静に提示された条件を分析・判断して、検討時間を要求したりきっぱりと断るなど、毅然とした対応が求められます。


    この続きでは、『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』を活用する際に起こりがちな失敗例と
    その対策
    について解説しています。

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