自分の中で分類したカテゴリーによって倹約 or 浪費しやすくなる!?『メンタル・アカウンティング』

お金に関して意思決定をする際、最終的な支出は変わらないにも関わらず、自分の心の中でカテゴリー・トピックごとに分類する『メンタル・アカウンティング』と、関連・派生する心理的傾向などについて解説しています。

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『メンタル・アカウンティング』とは?

金銭に関して合理性がなく心情的な判断をする心理的バイアス

『メンタル・アカウンティング(Mental Accounting)』とは、お金に関して意思決定をする際、最終的な支出は変わらないにも関わらず、自分の心の中でカテゴリー・トピックごとに分類する心理的傾向のことです。

例えば、「これは生活費」「これは娯楽費」「これは貯蓄」といったように、自分自身の中で勘定項目ごとに分けて考えているということです。

無意識にカテゴリー・トピックごとに分類

そして、それぞれの分類する勘定項目ごとに損得や利益の重要度に応じた価値判断が行われるため、時に不合理な選択や心情的な判断をしやすくなり同じ金額であっても勘定項目によって扱い方が異なることがあります。

具体例としては、同じ1万円でも、旅行のために貯めた娯楽費は「特別なお金」なので、大切に使いたいと考えやすくなりますが、生活費の場合は、言い換えると「使い捨てのお金」であるため、比較的気軽に使ってしまう傾向が生じるというケースが挙げられます。

この『メンタル・アカウンティング』は『メンタルアカウント』や『心の会計』、『心の家計簿』とも呼ばれ、1985年にアメリカの経済学者であり行動経済学の権威でもあるシカゴ大学のリチャード・セイラー 氏 が提唱しました。

日本の家庭や会社組織で根付く『メンタル・アカウンティング』

現金で支給・支払いが主流だった時期も

以前の昭和の時代では、給料日に現金で給与を渡されることが主流でした。

その時代では、現金での支払いが当たり前であることから、多くの家庭が日々の食費や光熱費、子どもの習い事の月謝や貯金などの使い道ごとに封筒などに入れて家計の管理をしていました。

電子マネー・キャッシュレス決済が浸透

現在は、給与は振込がほとんどで、口座引き落としやクレジットカード・電子マネーでの支払いが増えており、生活費の管理方法は刻々と変化しています。

企業組織では各部門や使用目的ごとに予算を設定している

一方、会社組織では、かつての昭和の時代のように各部門や使用目的ごとに予算を設定しており、意識的に『メンタル・アカウンティング』を行っている形となっています。

その理由としては、仮に組織全体が一つの財布でやりくりしようとすると、特定の部門が期初に大きな支出をしてしまうと、それ以降、他部署は使い道に苦慮してしまいます。

また、それぞれの部門が気を使って自由に予算を執行できないというケースも起こり得ます。

そのため、ある程度期初の段階で予算を小分けにしておくことで、予算内に収まり目的通りであれば、スピーディーにお金を動かすことができるようになります。

想定通りの予算・目的であれば執行しやすいですが融通が利かないデメリットも

ですが、予め予算を設定し執行することから、部門間での予算の融通が利かないというデメリットもあります。

『メンタル・アカウンティング』を顕在化した実験

顕在化させた2つの実験

リチャード・セイラー 氏 が『メンタル・アカウンティング』の存在を顕在化させた実験があります。

映画を観ようとする場合・・・

映画を観ようとする際・・・

Q1:あなたは、ある映画を観に行こうとして、前売り券(10ドル)を購入しました。
ところが、入口でチケットを紛失したことに気づきました。
もう1度10ドルを払って当日券を買いますか?

前売り券を買っていたはずが紛失・・・

Q2:あなたは、ある映画を観に行くことを決めました。当日券は10ドルです。
チケットカウンターで買おうとすると、財布の中にあったはずの10ドルが無くなっていることに気づきました。
それでも10ドルを払って当日券を買いますか?

入っていたはずのお金が見当たらないけど・・・

Q1の質問を投げかけた結果、全体の46%の人が再度購入すると答えました。

一方、Q2の質問に対しては、88%の人がチケットを購入すると答えました。

どちらの質問も「失った金額は同じ」ですが、答えは大きく異なる結果となりました。

この理由について、リチャード・セイラー 氏 によると、『娯楽費』という勘定科目で考えると、Q1の場合はチケットを再度購入すると、前売り券の購入に10ドル費やしていたうえにもう1枚購入することで、映画を観るために「20ドル」という通常の2倍の額のコストを要することになりました。

これに対し、Q2の場合は同じ20ドルの支出でも、「10ドルの現金を無くす」ことは映画の『娯楽費』には含まれていない(内訳が異なる)ため、20ドルを支払って映画を観ることになった、という事実はどちらも変わりありませんが、『心の会計』においてはチケットに10ドルしか支払っていないことになります。

結果、Q1と比較するとQ2の場合は、映画代としてチケット代の10ドルを支払うことは苦にならないと思いやすくなるというわけです。

つまり、同額を支払うケースであっても、躊躇するかは『メンタル・アカウンティング』によって異なるということです。

ジャケットと電卓を買う場合・・・

続いて、人間が「総額」だけで損得を判断していない傾向がある実験となります。

以下の2つの質問において、店員からのアドバイスを受けて参加者がどのような行動をするかを聞きました。

20,000ドルのジャケットと1,500ドルの電卓を購入する場合・・・

Q3:あなたは、20,000ドルのジャケットと1,500ドルの電卓を購入しようと考えています。
すると店員が「車で20分ほどの距離にある別店舗では電卓が1,000ドルで買えますよ」と教えてくれました。
あなたはその別店舗へ買いに行きますか?

20,000ドルの電卓と1,500ドルのジャケットを購入する場合・・・

Q4:あなたは、20,000ドルの電卓と1,500ドルのジャケットを購入しようと考えています。
すると店員が「車で20分ほどの距離にある別店舗では電卓が19,500ドルで買えますよ」と教えてくれました。
あなたはその別店舗へ買いに行きますか?

Q3では、68%の人が「別店舗へ行く」と答えたのに対して、Q4では29%に留まる結果となりました。

この2つの質問は「電卓が1,500ドル→1,000ドル」になるか、「電卓が20,000ドル→19,500ドル」になるかの違いです。

つまり、1,500ドルの電卓が1,000ドルで買えることは嬉しいと思いやすく、20,000ドルが19,500ドルになってもあまり嬉しくないと思いやすいということになります。

総合的に考えると、どちらも5ドルの支出を抑えることができますが「商品個別の損得」で判断していると実験結果から見ることができます。

関連・派生する心理的傾向

『ハウスマネー効果』の発生要因

この『メンタル・アカウンティング』は、ハウスマネー効果の発生要因として考えられます。

『ハウスマネー効果(House Money Effect)』とは、不労所得や臨時収入といった突然手にしたお金は、自分で労して稼いだ収入と比べて大胆な使い方をしやすい傾向のことです。

『ハウスマネー効果』の詳細については、こちらのページをご覧ください。

損失を挽回しようとさらにハイリスクな投資をする心理的傾向

さらに、『ハウスマネー効果』によって浪費し損失が重なると、人間は挽回しようとさらにハイリスクな投資をしやすくなります。

この心理状態は、行動経済学で『ブレークイーブン効果(Break even effect)』と呼ばれています。

そして、この『ブレークイーブン効果』と類似した心理事象としてコンコルド効果もあります。

『コンコルド効果』の詳細については、こちらのページをご覧ください。

最後に

お金にまつわる心理的バイアス

お金に関して意思決定をする際、最終的な支出は変わらないにも関わらず、自分の心の中でカテゴリー・トピックごとに分類する『メンタル・アカウンティング』

自分の中でお金を勘定科目ごとに分類することで、価値観や優先順位を決めています。

堅実な貯蓄に活用できるケースも

『メンタル・アカウンティング』によって縛りができ、お金に関する融通が利かなくなる、ある種のデメリットもありますが、逆にこの心理的なバイアスを利用すると、例えば「貯金・貯蓄用」として明確に分離することができるので、簡単には取り崩せないと考え、貯蓄に失敗する可能性を減らすことも可能になります。

日常生活においても、組織・部門ごとの予算策定といったビジネスシーンにおいても、『メンタル・アカウンティング』を理解し活用すれば、さまざまな恩恵を得られることにつながります。

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