最初に小さな要求を承諾すると、次の段階で大きな要求を受けた際に承諾しやすくなる『フット・イン・ザ・ドア』。
発生するメカニズムや日常生活・ビジネスシーンでの活用例、ローボール・テクニックやドア・イン・ザ・フェイスとの違い、
活用する際に起こりがちな失敗例と効果的に活用するためのポイントについて解説しています。
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『フット・イン・ザ・ドア』とは?
『フット・イン・ザ・ドア(Foot in the Door)』とは、最初に小さな要求を承諾すると、次の段階で大きな(本命の)要求を受けた際に承諾しやすくなるという心理に基づいた交渉テクニックのことです。
つまり、最初にハードルの低い要望を受け入れることで、次の段階でより大きな要望を受けたとしても、負担を(それほど)感じることなく受け入れてしまうというテクニックです。
交渉時やセールスシーンといったビジネスでも、日常生活でも活用することができる心理テクニックとして知られ、『段階的依頼法』とも呼ばれています。
特に慎重なお客様に対するクロージングに効果的で、段階的に推奨できるような商品・サービスを用意することで効果を発揮する手法と言えます。
名称の由来
この『フット・イン・ザ・ドア』の名称の由来は、「足先をドアに入れる」という意味の通り、訪問したセールスマンがドアが閉まらないように、足先(=小さな承諾)を入れてしまえば「もう売ったも同然だ」ということから来ています。
発生するメカニズム・仕組み
なぜ『フット・イン・ザ・ドア』が効果を発揮するかというと、『一貫性の原理』が影響しているからです。
人間には元々、自身の行動や発言、態度や信念などについて「一貫性を持たせたい」とする『一貫性の原理』が作用しやすい性質があります。
最初に小さな要求に応じたことで、その行動に矛盾が生じないように「一貫性」を持たせようと、次の要求も受け入れやすくなる、というわけです。
『ローボール・テクニック』
『一貫性の原理』という心理作用を応用する手法に『ローボール・テクニック』があります。
『ローボール・テクニック』とは、まず相手に好条件を提示し、承諾してもらった後に不利な条件を付け加える手法のことです。
この「ローボール」とは、受け取りやすい低めのボール=「誘い球」を意味しています。
身近な例としては、スマホアプリにクーポンが届いたことをきっかけに飲食店に来店したところ、そのクーポンが使えるメニューが売り切れていた際、「せっかく店に来たし・・・」としぶしぶ別メニューを注文してしまう、というケースが挙げられます。
つまり、簡単な要求(受け取りやすいローボール)に対して「イエス」と言ってしまうと、段々と高い要求をされたとしても「ノー」と言えなくなり受け入れるようになってしまう心理作用を狙った手法です。
実証した実験内容
アリゾナ州立大学の名誉教授であり、社会心理学者であるチャルディーニ 氏 が、大学生を被験者にした実験が知られています。
- 大学生たちに「朝7時から始める心理学の実験に協力してください」と伝える⇒全体の31%が承諾。
- 「心理学の実験に協力してください」と要請した後に「実験は朝7時から始まるので間に合うように来てください」と伝える⇒全体の56%が承諾。
最初に被験者である大学生たちが受け入れやすい情報だけを伝え承諾を得れば、その後に「朝7時」という受け入れにくいネガティブな条件を伝えても、拒否せずに受け入れてもらえやすい傾向が判明しました。
結果として、『ローボール・テクニック』を活用することで、実験への参加承諾率に倍以上の差が出ることが明らかになりました。
つまり、初めに対象が受け取りやすい「ローボール(低い球)」を投げれば、その次に受け取るのが難しい「ハイボール(高い球)」も取るようになるという心理テクニックです。
『フット・イン・ザ・ドア』との違い
『フット・イン・ザ・ドア』と『ローボール・テクニック』は、『一貫性の原理』が根拠であり、最初に受け入れやすい条件を提示して承諾を得る点は同じですが、承諾後に「追加の要求をする」か「悪条件を明かす」かに違いがあります。
日常生活での活用例
この『フット・イン・ザ・ドア』はビジネスシーンだけに限らず、日常生活でも使えることのできるテクニックです。
日常生活の例:友人への頼みごと
身近な例としては、友人に何か頼みごとをしたい時に、最初に小さなお願いをして引き受けてもらうと、その後の大きなお願いも了承してもらいやすくなるというケース。
日常生活の例:街頭で行われている募金活動
ほかにも、街頭で行われている募金活動に対応すると、その後のさらに大きな募金・寄付のお願いにも応じやすくなるというケースが考えられます。
「募金・寄付をした」という最初の行動があることで、次の募金・寄付のお願いを断ると矛盾が生じてしまうことを避ける心理が作用しています。
日常生活の例:アンケートのお願い
身近なケースと断定しづらいところではありますが、「アンケートのお願い」も例として挙げられます。
例えば、新橋のオフィス街で女性から「簡単なアンケートをお願いします」と声をかけられたことがあるかもしれません。
それに気軽に引き受けてしまうと、「よりパーソナルな情報を記載してもらえれば、2,000円分のクオカードをお渡しします」と言われ記入してしまう。
その後、アンケートに記入した番号に、ひっきりなしに不動産売買についての勧誘電話がかかってくるというケース。。
この受け手にとっては「悪手」と言えるようなケースでも、簡単なこと(アンケート)を承諾した結果、思わず先方の本来依頼したいこと(個人情報の提供)を引き受けてしまう、という『フット・イン・ザ・ドア』が用いられています。
ビジネスシーンでの活用例
『フット・イン・ザ・ドア』の代表的なビジネスシーンでの活用例は、以下のようなセールスやマーケティングの場面が挙げられます。
ビジネスシーンの例:商談時の提案
セールスマンが新規顧客候補(潜在顧客)にアプローチする際に、最初に大規模な契約や高額商品・サービスを提示してしまうと、相手は警戒心を強めて断られる可能性が生じてしまいます。
そこで、『フット・イン・ザ・ドア』というテクニックを活用して、最初に小さな提案をして受け入れてもらうことで、次第に大きな要求にも応じやすくなります。
※『フット・イン・ザ・ドア』と類似した発想で、購入しやすい集客商品をフックにして「本命商品」を販売する『バックエンド商品』という販売手法もあります。
「集客商品」で獲得したお客様に対して販売する「本命商品・サービス」を意味する『バックエンド商品』。『バックエンド商品』の概要と実際のビジネス例について解説しています。
ビジネスシーンの例:アップセルやクロスセル
『フット・イン・ザ・ドア』は『アップセル』や『クロスセル』といった販売手法にも用いられています。
最初に、安価な商品やサービスのトライアルを提案し、これが受け入れられた後にグレードの高い上位商品や関連サービスを提案することで、顧客単価を上げ高い収益性を確保することにつながります。
※『アップセル』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
顧客に対してより高額な「上位商品・サービス」の購入を促すことで、収益を増やす手法である『アップセル』。メリットと実際のビジネス例、アップセルが起こる心理的要因、『クロスセル』との違いについて解説しています。
※『クロスセル』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
顧客が購入する・購入し利用しているタイミングで、「関連する別の商品・サービス」の購入を促すことで、収益を増やす手法である『クロスセル』。メリットと実際のビジネス例、クロスセルが起こる心理的要因、『アップセル』との違いについて解説しています。
ビジネスシーンの例:試供品や無料体験版をフックに購買を促進
BtoCであれば試供品、BtoBであればサービスの無料体験版などを提供し、商品やサービスの「良さ」や使用感を理解してもらった後に購入を促すことで、心理的ハードルが下がり購入に対して意欲的になりやすくなります。
ビジネスシーンの例:店舗の目立つ箇所にオトク商品を陳列
小売業でいえば、店頭に特売品や割引商品を陳列することも、『フット・イン・ザ・ドア』の「足先」に該当します。
特売品や割引商品を「撒き餌」に客足を引き付けて、店内奥の高額商品のコーナーまでの導線を考慮し誘導することになります。
ビジネスシーンの例:「続きはWebで」
「続きはWebで」という手法も、『フット・イン・ザ・ドア』の条件を満たしています。
インターネット検索をした人は、すでに「Webで調べる」というお願いを受け入れています。
そして、Webの該当ページに流入してもらい、理解を深めてもらうことで購入の可能性が高まるというわけです。
※「続きはWebで」という未完成な情報を提示し興味をそそる心理効果を『ザイガニック効果(ツァイガルニク効果)』と呼びます。
あえて未完成な情報を提供することで印象を残して続きを知りたいと思わせる『ザイガニック効果』。活用例や効果を発揮させるためのポイントなどを解説します。
『ドア・イン・ザ・フェイス』との違い
『フット・イン・ザ・ドア』と混同されがちな心理テクニックに『ドア・イン・ザ・フェイス』があります。
この2つの手法は、どちらも交渉やセールス、マーケティングにおいて用いられますが、アプローチが異なるため、理解したうえで相手によって使い分けることが必要になります。
『ドア・イン・ザ・フェイス』とは?
『ドア・イン・ザ・フェイス(Door in the Face)』とは、まず大きな要求を提示して断らせた後に、本命の小さな要求をすることで、本命の要求を受け入れてもらいやすくするテクニックのことです。
『譲歩的要請法』とも呼ばれ、慣用句の「shut the door in the face(門前払い)」が由来で、セールスマンが訪問販売時に「断られることを前提にドアから顔を覗かせる」という行動からきています。
違い①:要求の順番
『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』の違いの一つとして、「要求の順番」が挙げられます。
- フット・イン・ザ・ドア:小さな要求→大きな要求
- ドア・イン・ザ・フェイス:大きな要求→小さな要求
『フット・イン・ザ・ドア』は、最初に相手が受け入れやすい「小さな要求」を提示し、それが承諾された後に「大きな要求」をしていく手法です。
一方、『ドア・イン・ザ・フェイス』は逆に、最初にあえて「大きな要求」を提示し、相手がそれを断った後に「(本命の)小さな要求」をしていく手法です。
違い②:起因する心理的効果
また、「起因する心理的効果」も違いの一つです。
- フット・イン・ザ・ドア:一貫性の原理が起因する。
- ドア・イン・ザ・フェイス:返報性の原理が起因する。
『フット・イン・ザ・ドア』は、一度引き受けたことに対して「一貫性を持とう」とする心理によって、後に出される要求も受け入れやすくなる『一貫性の原理』が起因しています。
一方、『ドア・イン・ザ・フェイス』は、最初に提示された過大な要求を断ったことで、その後に提示される小さな要求を受け入れようとする『返報性の原理』が起因となっています。
※『返報性の原理』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
日本のマーケットに有効な効果が期待できる返報性の原理。4つの種類と活用する際のポイントや注意点を解説します。
それぞれ効果を発揮するケースとは?
『フット・イン・ザ・ドア』と『ドア・イン・ザ・フェイス』は、対象である顧客や、顧客それぞれの性格によって使い分けることが重要となります。
- フット・イン・ザ・ドア:まだ関係性が築けていない新規顧客候補や見込み客に有効。
- ドア・イン・ザ・フェイス:すでに何度も交渉をしている見込み客や契約している既存顧客に有効。
『フット・イン・ザ・ドア』は、新規顧客候補(潜在顧客)や見込み客といった、まだ関係性が築けていない場合に有効な手法です。
一方、『ドア・イン・ザ・フェイス』は、すでにある程度の関係性を築けている、何度も交渉をしている見込み客や既存顧客に対して有効な手法です。
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この続きでは、『フット・イン・ザ・ドア』を活用する際に起こりがちな失敗例と
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