矛盾した2つのメッセージを出すことで相手の混乱を招く『ダブルバインド』。
典型的な5つの発生例、発生することで生じるデメリット、予防法や対処法、『ダブルバインド』の種類などについて解説しています。
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『ダブルバインド』とは?
『ダブルバインド(double bind)』とは、矛盾した2つのメッセージを出すことで、相手の混乱を招くコミュニケーション方法のことを指します。
受け取ったメッセージに沿ってアクションを起こしたとしても、理解を得られない・満足させられない状況に陥ってしまうことが特徴で、心理的なストレスを感じやすく、混乱しやすい傾向があります。
よく知られている『否定的ダブルバインド』のほかにも、ポジティブな『肯定的ダブルバインド』もあります。
起源・提唱したのは?
ダブル(Double)は「二重」、バインド(Bind)は「拘束」という意味があり、日本語では「二重拘束・二重束縛」と呼ばれています。
この『ダブルバインド』を提唱したのは、イギリス出身で文化人類学や精神学の研究を行っていた グレゴリー・ベイトソン 氏。
精神病棟での勤務で得た知見に基づき『ダブルバインド』という概念を生み出し、1972年に執筆された『精神の生態学』において理論が構築されました。
『ダブルバインド』の発生例
『ダブルバインド』は、日常のシーンでもビジネスシーンでもよく起こります。
典型的な例としては、以下のようなケースが挙げられます。
「怒らないから正直に話して」
親子関係においても『ダブルバインド』は生じます。例えば、子どもが悪いことをしてしまった時。
親から「怒らないから正直に話して」と言われたから、正直にしたことを話すと「なんでそんなことをしたの!」と怒られてしまう。
「話せば怒らない」というメッセージと、「悪いことをしたことを話したら怒る」という2つの矛盾したメッセージが親から発信されたために、受け手である子どもが精神的な混乱状態に陥ってしまう。
「わからないことがあったら何でも聞いて」
職場での上司と部下のコミュニケーションにおいても『ダブルバインド』は起こります。
例えば、「わからないことがあったら何でも聞いて」と上司に言われ、部下が業務を進める中で不明点があった際に聞くと「そんなことは自分で考えなさい」と言われてしまう。
「わからないことがあったら何でも聞いて」というメッセージと「そんなことは自分で考えなさい」というメッセージが矛盾しているため、部下にとっては「正解」がなく、ストレスを感じたり困惑してしまうというわけです。
「業務の進捗報告をするように」
ほかにも、上司が部下に対して「業務の進捗報告をするように」と指示した場合。
その指示を受けて部下が進捗を報告しようとすると、上司から「君の意見は聞いていないから、事実や結果だけを話してくれ」と言われてしまう。
「業務報告を求める」というメッセージと「意見は聞いていない」というメッセージが、部下にとっては「矛盾している」と捉えられるため、萎縮したりモチベーションの低下につながってしまいます。
ミスの理由を伝えたら「言い訳するな」
また、上司から業務上のミスに関する理由を聞かれて答えた際、「言い訳は聞いていない」と言われてしまうケース。
部下からすると、ミスの理由を聞かれたので答えたのに「言い訳するな」と注意されてしまうのは、『ダブルバインド』であり混乱を招くことになってしまいます。
「黙って仕事をしなさい」
さらに、「喋っていないで集中して仕事をしなさい」と上司から言われたので、黙って仕事を進めていたら「周りの人たちとコミュニケーションをとりなさい」と言われてしまうケース。
喋らずに仕事をするよう言われて、黙々と仕事をしていたら注意をされてしまう。このケースも『ダブルバインド』といえます。
『ダブルバインド』によって生じるデメリット
2つの「矛盾」するメッセージを受け取る『ダブルバインド』の状態が続くと、以下のような悪影響が生じるようになります。
コミュニケーションエラーが生じる
『ダブルバインド』の影響を受けると、2つのどちらのメッセージ(指示・命令など)の通りに行動しても、叱責などのネガティブな言動を受けることから、すべき行動がわからなくなってしまいます。
さらに、そのメッセージを発信する人との接触を拒否するようになり、自身の判断で進めるようになってコミュニケーションエラーが生じるようになってしまいます。
仕事のパフォーマンスが低下してしまう
また、『ダブルバインド』の影響を受けることで、どうすべきか「正しい答え」がわからなくなってしまいます。
そういった状態が続くと、自己肯定感が低下し、自分に自信が持てなくなります。
結果、目の前の業務に対して消極的になり、業務パフォーマンスが低下することにつながってしまいます。
メンタルの不調や疾患、退職につながるリスクも
『ダブルバインド』の影響下に居続けると、メッセージを発信する相手から「否定され続けている」と感じるようになり、受け手は緊張やストレス、混乱を強いられることになります。
その結果、メンタルに不調をきたす可能性が生じます。最悪の場合、統合失調症などの精神疾患に陥ることも考えられます。
精神疾患になってしまうと出社できる状態ではなくなるので、個人の問題に留まらず組織や企業全体に悪影響を及ぼすことにつながります。
『ダブルバインド』の予防法・対処法
『ダブルバインド』を用いるマネジメント層や従業員がいると、コミュニケーションに支障をきたすだけでなく、業務のパフォーマンスの低下や、最悪の場合には離職者が増えてしまうことにもつながってしまいます。
『ダブルバインド』が企業組織に悪影響を及ぼすことのないよう、以下のような取り組みを進めることが求められます。
「矛盾」が生じないよう指示や命令を「具体化」する
『ダブルバインド』のような状態を防ぐためには、2つのメッセージが矛盾しないよう心掛ける必要があります。
そのために、業務の指示・命令のやり方を「具体化」するようにします。例としては以下のようなステップを踏むのが理想です。
- 業務指示をする際にまず「どういった内容なのか」「なぜやらなければならないのか(理由)」を伝える。
- 「こういった形で進めて欲しい」など、受け手がイメージしやすくなるよう具体例などを伝える。
- わからない点・不明点などを聞き、伝わったかを確認する。
これらのステップを踏むことで、『ダブルバインド』の発生を回避し、お互いが納得感を持つことができるようになります。
『ロジカルシンキング』を身につける
ほかにも、『ロジカルシンキング』を身につけることも、『ダブルバインド』を防止することにつながります。
論理的に物事を思考する『ロジカルシンキング』によって、論理的に考えることができれば、説得力のある説明がしやすくなります。
また、抽象的な説明にならずに済むので、『ダブルバインド』が起こりづらくなります。
「説明不足」がないよう心掛ける
「具体性」を持たせるのと併せて「説明不足」を解消するよう心掛けることも重要なポイントとなります。
前述の「わからないことがあったら何でも聞いて」→「そんなことは自分で考えなさい」というケースでは、上司としては「わからないことといっても、ある程度は自分で考えて欲しい」と考えていることがあります。
であるならば、「わからないことがあったら、まずは自分で調べてみたり考えてみて、それでもわからなかったら気兼ねなく聞いてください」と事前に伝えることが必要です。
また、「業務の進捗報告をするように」→「君の意見は聞いていないから、事実や結果だけを話してくれ」というケースでは、あらかじめ「事実や結果だけを報告してほしい」と伝えておくべきです。
自分であれば「そこまで言われなくてもわかる」ことでも、相手にとってはそうではないことも多々あります。
「行間を読め」「臨機応変に対応しろ」と思うかもしれませんが、相手の立場に即した言動を心掛けるべきです。
過去の言動を振り返らせる
他者に『ダブルバインド』をしてしまった人に気づかせる場合は、『ダブルバインド』に該当する過去の言動を振り返らせることが、今後の発生を防ぐ手立ての一つと言えます。
振り返って自覚できれば意識するようになるため、自身で留意する姿勢につながります。
メンターなど第三者に相談する
自分が『ダブルバインド』によって心理的負担をかかえている場合、客観的に現状を把握して、問題点を理解することが重要になります。
自身を客観視して冷静に捉えたり、メンターなどの第三者に相談することも手段の一つと言えます。
コミュニケーションがとりやすい職場環境
もし『ダブルバインド』が生じてしまったとしても、お互いが信頼関係を築いていれば、「それは矛盾していますよ」など(冗談交じりに)指摘することもできるかもしれません。
また、耳にした第三者が割って入ることがあるかもしれません。
その際に、コミュニケーションがとれていなかったり、信頼関係が築けていないと、より関係性が悪化してしまいます。
(理想ですが)立場や役職を超えて、節度を持った意見交換ができるような職場環境が構築できていれば、『ダブルバインド』の予防であったり、発生後の対処もしやすくなるはずです。
悪質な場合は降格や部署異動、退職勧告も
もしも、相手に心理的負担を課す『ダブルバインド』を起こす人が前述の予防法・対処法を駆使しても改善しない場合は、降格や部署異動、退職勧告することも視野に入れる必要があります。
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この続きでは、2種類の『ダブルバインド』について解説しています。
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