メディアなどが発信する情報に接触する際「自分自身は影響を受けないが、世間の人たちは大きな影響を受けてしまう」と考える『第三者効果』。
発生することによる影響や発生例、どんな人が陥りやすいのか、マーケティングへの応用や克服・回避する方法について解説しています。
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『第三者効果』とは?
『第三者効果(Third Person Effect)』とは、マスメディアやインターネット、SNSなどで『プロパガンダ』や有害な情報に晒されるとき、自分自身は影響を受けないが、世間の人たちは大きな影響を受けてしまうと考える心理的傾向のことです。
インターネットやテレビ・新聞といったマスメディアなどから発信される『プロパガンダ』(意図をもって特定の主義・思想に誘導する宣伝戦略などの行為)に「自分以外の人が影響を受けてしまう」と懸念する一方で、その影響は自分以外の他者(第三者)にだけ起こることで「自分はそんな情報には踊らされたりはしない」と考えてしまう、ということです。
つまり、「世間の人たちは情報弱者(情弱)だからメディアの影響を受けやすい」「自分は他の人たちと違ってネットの情報に踊らされたりはしない」と、みんなが思い込んでしまう傾向のことです。
提唱したのは?
この『第三者効果』は、アメリカの社会学者であるW.フィリップス・デイヴィソン(W. Phillips Davison)氏 が、1983年に発表した論文が由来と言われています。
論文では『第三者効果』を提唱するに至った、さまざまな調査結果が報告されています。
数ある調査結果の中で、『第三者効果』の着想を得たきっかけになったのが、第二次世界大戦時の日本軍の軍事戦略です。
第二次世界大戦の際、日本軍は硫黄島での戦闘で、アメリカ軍のアフリカ系兵士で構成された部隊に『プロパガンダ』(宣伝工作)を仕掛けました。
「日本人は有色人種とは戦わない。白人のために命を脅かす必要はない、降伏せよ」という内容のビラを撒きました。
このビラがどの程度影響を与えたのかはわかってはいませんが、この部隊を統率していた白人の司令官は「影響を受けて士気が下がった」と過大に見積もり、撤退を決断することになりました。
アフリカ系兵士にビラで伝えたメッセージが、結果としてターゲットではなかった『第三者』である司令官の判断に影響を与えた、というわけです。
『第三者効果』に陥る際の思考パターン
関東学院大学の正木 誠子 氏 の2020年の論文によれば、メディア(テレビ)から自分や他者が影響を受ける度合いを図であらわすと、上記のような4つのパターンに大別することができます。
縦軸に「他者がテレビから受ける影響度」、横軸に「自分がテレビから受ける影響度」とした4象限の場合、左上の「自分がテレビから受ける影響度は低いが、他者は影響度が高い」という思考になると『第三者効果』に陥っているということになります。
つまり、「自分はメディアリテラシーが高いからそれほど影響を受けないが、他の世間一般の人たちはメディアに扇動されるリスクがある」という思考であるほど、『第三者効果』に陥ってしまいやすいということです。
発生するとどんなことが起きるのか?
自負によって足元をすくわれてしまう
『第三者効果』に陥ってしまうと、個人レベルでは「足元をすくわれる」リスクが生じてしまいます。
「自分は他の人たちと違ってメディアの情報に踊らされたりはしない」という自負が度を超すと、過信や慢心に変貌することになります。
すると、マスメディアやSNSで広まる情報に対して真偽を確認することを怠ってしまうことで、自身の思う世間一般の人々のように、メディアの影響を受けたり扇動されやすくなってしまいます。
メディア表現などへの規制強化
さらに、『第三者効果』に陥ることで「メディアが発信する情報に検閲や制限」を望むようになります。
『第三者効果』によって、マスメディアやSNSなどが発信する情報が、自分に与える影響は過小評価し、その他大勢への影響は過大評価することになります。
そのため、その自分以外の大勢を「守る」ために、マスメディアやSNSの発信情報への規制を高めようとしたり、規制強化の流れを受け入れやすくなります。
その対象は、アニメやゲームの性的描写や暴力描写、アルコール飲料やタバコの広告表現や演出、最近ではフェイクニュースなどにも及びます。
自分にはそれほど影響は及ぼさないが、「社会的に好ましくない」「真偽が不確かな情報だ」と考え、「他者にとっては有害だ」と情報の規制や検閲を望むようになる、ということです。
戦時下の国家や独裁政権国家による言論統制
例えば戦時下の国家や独裁政権国家の場合、『第三者効果』による国民が発する言論の影響の大きさを過剰に見積もることで、そういった「声」が政治体制を脅かすのではと考え、言論統制を行って反政府的な発信をする人々を拘束したり、受け皿となるメディアやネット空間を厳しく規制しようとするケースも起こり得ます。
この時、そういった国家を統率する立場にある人の頭の中では「市民=情報弱者」とレッテルを貼り、統制を図ろうと権力を発動するようになります。
歴史的な例としては、アドルフ・ヒトラーが挙げられます。
ナチスが台頭した時代、その頃普及し始めたラジオを通じてアドルフ・ヒトラーは演説を行い国民を熱狂させたのは、マスメディアの登場とその影響の強さを示す有名な話です。
とはいえ、マスメディアの『第三者効果』によるプロパガンダの影響力は限定的だったという説もあります。
『第三者効果』の発生例
クレヨンしんちゃん
身近な例としては、国民的アニメとなった「クレヨンしんちゃん」が挙げられます。
教育上好ましくない「下品な」シーンや「げんこつ」といったシーンが封印されるようになっています。
「子どもがマネしたらどうする!」「教育上、よろしくない!」という『世論の声』によってでしょうが、過敏に捉えすぎだなと思うところもありますが。。
アメリカの選挙とテレビCMの影響
上述の『第三者効果』を提唱した、W.フィリップス・デイヴィソン 氏 の論文で取り上げられた調査結果に、アメリカの選挙があります。
ニューヨーク州知事選挙の直後に、コロンビア大学の大学院生を対象に「選挙中のイベントやデモが『自分』と『一般的な多くのニューヨーク市民』にどの程度影響を与えたか?」をヒアリングしました。
その結果、「自分よりも『一般的な多くのニューヨーク市民』の方が影響を受けた」と回答した割合が高かったと言われています。
さらに別の調査では、大学院生を対象に「『子どもの頃の自分』と『ほかの子ども』を比較して、テレビCMを見て宣伝されている商品を両親にねだる可能性はどちらが高いか?」とヒアリングしました。
その結果、『子どもの頃の自分』よりも『ほかの子ども』の方が、テレビCMに大きく影響されて両親にねだると回答しました。
どちらの調査も、「自分よりも他者の方がメディアの影響を受けやすい」という『第三者効果』を裏付ける結果になっています。
コロナ禍のトイレットペーパーの買い占め騒動
2020年2月末、コロナ禍で発生した『トイレットペーパーの買い占め騒動』では、SNS上に「トイレットペーパーの多くは中国で製造・輸出しているため、新型コロナウイルスの影響でこれから不足する」というデマが投稿され、2020年4月上旬まで全国的に品薄・品切れ状態が続くことになりました。
このケースでは、「自分はこんなデマには騙されないが、他の人たちは鵜呑みにして買い占めてしまうかもしれない」「それなら店頭から無くなる前に自分も買いだめしよう」と多くの人が陥ってしまいました。
『第三者効果』が生じたことへの『対処行動』の衝動を強くかき立てられたケースの一つと言えるでしょう。
どんな人が『第三者効果』に陥りやすいのか?
この『第三者効果』に陥りやすいのは、エリート層や専門家と言われています。
なぜかというと、エリート層や専門家のほとんどは『社会的地位が高く』、一般の人たちを『情報弱者』と見なし、メディアやSNSで発信される情報に踊らされやすいと認識する傾向があるからです。
さらに、自身が『オピニオンリーダー』になって、悪しき影響が及ばないようにメディアへ規制を促したりするケースもあるとのこと。
特にこういった思考の傾向は、ポルノ関連については女性の方が多く、また高齢である・自身の教育レベルが高いと自覚しているほど、顕著になりやすいと指摘されています。
つまり『他者への優越感を持っている』ほど、『第三者効果』に陥りやすい傾向があるということです。
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この続きでは、『第三者効果』のマーケティングへの応用例や、克服する・回避する方法について解説しています。
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