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『心理的リアクタンス』とは?
せっかく宿題をやろうと思っていたのに「早くやりなさい」と言われて、やる気が失せてしまったというような経験、ありませんでしょうか?これは『心理的リアクタンス』によるものです。
心理的リアクタンスとは、自身の選択や行動の自由を制限される・奪われると、自由を得ようと反発することです。
人間は、本来持っている選択や行動の自由を他者に脅かされた時、その自由を回復しようとして抵抗心や反発感情が生じるようになります。
「リアクタンス」の語源は、抵抗や反発を意味する「リアクト」という物理用語で、アメリカの心理学者であるジャック・ブルーム 氏が1966年に提唱しました。
自由を制限された際、反発心理が働くことを示した実験
提唱したジャック・ブルーム 氏は、人間が自由に選択することを制限された際、反発心理はどのように働くのかを明らかにする実験を行いました。
実験の参加者に、複数提示したポスターの中から2枚のポスターを選んでもらいます。
その際、2枚のうち1枚は自由に選んでもらい、もう1枚は実験を行う研究者がチョイスしたポスターの中から選んでもらいます。
次に、参加者が自由に選んだポスターと、研究者がチョイスした中から選んだポスターのうち、最終的にどちらか1枚に決めるように参加者に求めます。
結果、研究者がチョイスしたポスターから選択する人の割合よりも、自身が自由に選んだポスターを選択する人の方が多かったことが観察できました。
このことから、ジャック・ブルーム 氏は「人間は自分の選択や自由に対して価値や重要性を感じる」ことを示唆しました。
『希少性』によって心理的リアクタンスが引き起こされることを示した実験
心理的リアクタンスが『希少性』によって引き起こされることが「クッキー」を用いた実験によって確認されています。
その結果は以下の通りです。
①2つどちらの瓶に入っているクッキーは同じであるにも関わらず、クッキーを2枚入れた瓶の方が、10枚入りよりも価値が高いと感じやすい。
⇒「クッキー10枚入り」よりも「クッキー2枚入り」の方が価値があると感じやすい。
②最初から2枚クッキーが入った瓶よりも、最初に10枚入った瓶を見せられ、その後2枚入りに減らされた瓶の方が価値が高いと感じやすい。
⇒「クッキー10枚→2枚入り」の方が「最初からクッキー2枚入り」よりも価値があると感じやすい。
実験の結果から、クッキーが2枚入った瓶の方が枚数が少ないにも関わらず、「他の人が選んだら自分がこちらを選べなくなるかもしれない」と選択の自由を脅かされると感じ、手に入れにくいものほど『希少性』を感じて欲しくなり、価値が高いと思いやすくなることを明らかにしました。
心理的リアクタンスの特徴と発生するメカニズム
発生するメカニズム・心理的な背景
『心理的リアクタンス』が発生するメカニズム・心理的な背景としては、人間が生まれながらに持っている「自分の行動や選択は自分自身で決めたい」という欲求によるものとされています。
自分の行動や選択を他人に決められたり、選択の自由を制限されてしまうと、抵抗・反発したり自分の意見に固執したくなる心理的傾向があることが上述の実験によって明らかにされました。
また、他者が提示する行動や選択が、自分にとってプラスになる事柄であったとしても、無意識下で反発してしまいます。
さらに、例え自分の予定していた行動や選択と、他者からの指示が同じであったとしても、心理的リアクタンスは発動するとされています。
「リアクタンス(抵抗・反発)」の大きさは、①自由が確信できるほど、②自由が重要であるほど、③自由への影響が大きいほど、発生しやすいとされています。
『プロスペクト理論』と『希少性』も引き起こす要因
また、プロスペクト理論(※)が示すように、「利得よりも損失を重視する」ため、買い逃すことで損をしたくないと考えることで『心理的リアクタンス』が作用し、より入手したいという気持ちが芽生えやすくなります。
※:プロスペクト理論:「手に入れるよりも失うことの方を重視する」という意志決定に関する心理的傾向を提唱した理論のこと。この理論が起因して『保有効果』や『損失回避バイアス(損失回避の法則)』が発生するとされています。
※『保有効果』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
一度所有したモノや環境に(高い)価値を感じて、それを手放すことに抵抗を感じるようになる『保有効果』。発生する要因やマーケティングシーンでの活用例などについて解説しています。
※『損失回避バイアス(損失回避の法則)』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
利得と損失を比較する際、損失の方をより重大だと感じやすく、損失を回避しようとする心理的傾向である『損失回避バイアス(損失回避の法則)』。なぜ発生するのか、ほかの8つの心理効果との関係性、具体例やビジネスシーンへの応用例などについて解説しています。
さらに上述の実験で明らかになっていますが、『希少性』によって心理的リアクタンスが引き起こされるケースもあります。
心理的リアクタンスの1つである『ブーメラン効果』
逆に『心理的リアクタンス』によって引き起こされるのが『ブーメラン効果』(※)です。
投げると元の場所に戻ってくるブーメランの軌道のように、行った行為や物事の結果が自身に返ってくる・逆効果となる『ブーメラン効果』。
例えば、意識的に心理的リアクタンスを引き起こすことで『ブーメラン効果』を誘発し、あえて逆の方向に相手の意見や態度を変えさせるという効果が期待できます。
※:『ブーメラン効果』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
投げると元の場所に戻ってくるブーメランの軌道のように、行った行為や物事の結果が自身に返ってくる・逆効果となる『ブーメラン効果』。発生する要因、心理学以外の分野で用いられる例などについて解説しています。
心理的リアクタンスとカリギュラ効果の違い
心理的リアクタンスと似た心理事象に『カリギュラ効果』(※)があります。
『カリギュラ効果』とは、禁止や制限をされることで、興味や関心が湧き衝動に駆られる心理作用です。
この2つの違いとしては、『強制』の有無です。
心理的リアクタンスは強制された行動に対して反発しようとしますが、カリギュラ効果には制限や行動に強制がないというのが異なる点です。
※:『カリギュラ効果』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
禁止や制限を設けることで興味を持ち行動してしまう『カリギュラ効果』の原理とマーケティングでの活用例、注意点について解説しています!
心理的リアクタンスの身近な例
多くの人々に知られている昔話や戯曲の中にも、強い制限が逆効果となる『心理的リアクタンス』を見ることができます。
昔話の『鶴の恩返し』
「私が機(はた)を織り上げるまで、決して部屋を覗かないでくださいね」と言われていたのに、おじいさんは覗いてしまった。
昔話の『鶴の恩返し』のシーンの一つですが、これも心理的リアクタンスによる行動で、「覗いてはいけない」という自由を制限されたことで「開けたい」という気持ちが強まってしまった、と考えられます。
昔話の『浦島太郎』
「絶対にこの玉手箱は開けてはいけません」と言われていた玉手箱を開けてしまう浦島太郎。
昔話の『浦島太郎』のシーンの一つですが、これも「開けてはいけない」という自由を制限されたことによって「開けたい」という気持ちが強まってしまった、と考えられます。
戯曲である『ロミオとジュリエット』
「両家が対立するため愛を成就できない」ロミオとジュリエットが、お互いの想いを遂げようとするが、結果2人とも命を落としてしまう恋愛悲劇の戯曲として知られています。
「対立する両家」という大きな障害が立ちはだかったことで、2人はお互いを愛するという自由を脅かされてしまった結果、想いが一層強くなり、極端な行動に走ってしまった、と考えられます。
ビジネスシーンにおける例
ビジネスシーンにおける意思決定の際にも、心理的リアクタンスは影響を及ぼしています。
営業の場面でも
例えば、商談相手が心理的リアクタンスを感じていると思われる場合には、「オトクなのでこの契約にしましょう」などとプッシュされると余計に反発心を抱いてしまうので、「私としてはオススメですが、よくご検討ください」といったように、相手に選択権があるような言い方をする方がベターと言えます。
販売促進やマーケティングの場面でも
「展示品限り」「期間限定」「先着〇名」などのワードを用いるのも、心理的リアクタンスを誘発しやすくなります。
「購入できる機会が限られている」とイメージさせられることから、機会を逃すと「購入する自由」を失ってしまうため、購入することで自由を回復しようとしやすくなります。
マネジメントの場面でも
社内のマネジメントシーンでは、例えばプライドの高い部下のモチベーションを管理する際に意識したいところです。
プライドが高い場合、往々にして「自分は優秀だから自分の裁量で仕事をしたい」と考えがちなので、「早くこの仕事を終わらせなさい」と言っても逆効果で反発心を招くことになりがちです。
なので、「自分に裁量がある」と思わせるような工夫した伝え方が求められます。
最後に
自身の選択や行動の自由を制限される・奪われると、自由を得ようと反発するようになる『心理的リアクタンス』。
ビジネスシーンにおいて、相手の反発や抵抗を招かない工夫も必要ですが、あえて反発や抵抗を招いて特定の選択肢に誘導するという活用方法も考えられます。
『心理的リアクタンス』を理解したうえで、ターゲットの利益や権利を守る配慮をしつつ、意思決定や行動を変化させるよう用いるのがポイントと言えます。
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