SNS上で自身の思考や思想が肯定され、同様の意見を見聞きし続けることによって、自身の言説が増幅・強化する現象である『エコーチェンバー』。発生する原因や発生することで助長してしまう事象、類似した現象との違いや発生例、発生することによって生じる問題点と対策方法について解説しています。
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『エコーチェンバー』とは?
『エコーチェンバー(Echo Chamber)』とは、「反響」や「共鳴」を意味し、主にSNSという特定のコミュニティ内で、思考・思想を肯定され、自身と同様の意見を見聞きし続けることにより、自身の言説が増幅・強まる現象を指します。
『フィルターバブル』(※1)の一種と言える現象ですが、主にSNS上で発生する現象が『エコーチェンバー』と呼ばれており、閉鎖された部屋で音が反響する物理現象から例えて『反響室現象』とも呼ばれています。
この『エコーチェンバー』の内部では、共通する「公式見解」には疑問や批判が一切投げかけられることがなく、増幅・強化され反響し続ける結果、同じ考え方や価値観を持つ人々が集まって先鋭化し、極端とも言える意見や主張が拡散しやすくなります。
※1:『フィルターバブル』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
インターネット上で自分の思想や価値観に合わせた情報のみが作為的に表示されることで、異なる意見が目に入りにくくなり、受動的に「泡(バブル)」に包まれたように孤立してしまう『フィルターバブル』。発生する仕組みや発生例、メリットとデメリット、対策方法について解説しています。
提唱した人物とは?
『エコーチェンバー』という概念は、1990年にアメリカのジャーナリストであるデビッド・ショー 氏が記事の中で用いたとされ、その後2001年にアメリカの法学者でありハーバード大学の教授であるキャス・サンスティーン 氏が著書である『インターネットは民主主義の敵か』で言及しました。
なぜ発生するのか?
自身の思考や思想が肯定され、同様の意見を見聞きし続けることによって、自身の言説が増幅・強化する『エコーチェンバー』ですが、この現象はSNS上で発生することに特化した名称です。
ですが、SNSやインターネットが普及する以前から、マスメディアの報道が『エコーチェンバー現象』を引き起こすことを、報道を注視していた人々の間では認識されていました。
例えば、メディアの「事情通」が、とある主張をすると、その内容は前々から同様の考えを持っていた人々によって反復されます。
その情報が「また聞き」で伝わる中で、誇張もしくは歪められ自身に返ってくる。
その流れが繰り返される中で、「誇張もしくは歪められた情報」が「真実」であると考えられるようになるというわけです。
この現象が発展すると、自身らと異なる意見や主張を排除する攻撃性が高まり、閉鎖的で過激なコミュニティを形成する『サイバーカスケード』と呼ばれる現象が生じるケースも。
そして現在普及しているFacebookやX(旧Twitter)といったSNSには、それぞれのユーザーの過去の検索履歴やクリック履歴をもとに興味関心を分析・学習する『アルゴリズム』によって、各人に最適化(パーソナライズ)したコンテンツや広告が表示されるようになっています。
そのため、ユーザーは無意識に類似した情報に多く接触することから、自身の考え方や価値観に疑念を抱くことなく強固に「正しい」と信じるようになり、極端に先鋭化しやすくなり時に異なる意見を「断絶」するようになります。
この現象は特に「政治」の分野で発生しやすいと、上述のキャス・サンスティーン 氏は指摘しています。
著書『インターネットは民主主義の敵か』の中で、無作為に選出した60の政治系サイトを対象に各サイトのリンク先を調査した際、反対意見へのリンクは20%に満たなかった一方で、賛同意見へのリンクは約60%と高い傾向があったことを明らかにしています。
発生することで助長してしまう事象も
『エコーチェンバー』という、閉鎖的なコミュニティ内で自身と同様の意見や主張を増幅・強化する現象によって、異なる意見を避け自身に都合の良い情報だけを取得するようになることを助長することになります。
これは『確証バイアス』(※2)と呼ばれています。
また、何度も同じ情報を見聞きするという閉鎖的な空間によって『ザイオンス効果(単純接触効果)』(※3)が起こり、真偽不明な情報でも信じやすくなってしまうということも起こり得ます。
※2:『確証バイアス』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
自身にとって都合の良い情報ばかりを集める心理傾向である『確証バイアス』。ネガティブな影響とポジティブな活用例について解説しています。
※3:『ザイオンス効果(単純接触効果)』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
接触回数を増やすことで興味関心や好感度が高まりやすくなる『ザイオンス効果』。どういったメカニズムなのか、ビジネスでの活用例を解説しています。
類似した現象との違い
このエコーチェンバーに類似した現象として、『フィルターバブル』と『サイバーカスケード』が知られています。
これらの違いをまとめると、以下のような内容になります。
●エコーチェンバー:閉鎖的なSNSコミュニティ内で同じ思想の人々とのやり取りの中で、自身と同様の意見や主張が増幅・強化される現象。フィルターバブルの一種(SNSに特化した現象)。
●フィルターバブル:システムによって作為的に自分の思想や価値観に合わせた情報が表示されることで、異なる意見が目に入りにくくなり、受動的に「泡(バブル)」に包まれたように孤立してしまう情報環境。
●サイバーカスケード:同じ思考や主義を持っている他者とインターネット上で結びつきを強め、異なる思考や主張を排除する『集団極性化』が進むことで、閉鎖的かつ過激なコミュニティを形成する現象。
逆に共通点としては、いずれの現象も「接触する情報は偏ったものである」という点です。
エコーチェンバー現象の発生例
上述したように、この『エコーチェンバー』は、政治の分野で起こりやすい現象です。
2016年のアメリカ大統領選挙
『エコーチェンバー』の認識が世に広まったのは、2016年のアメリカ大統領選挙だと言われています。
この2016年のアメリカ大統領選挙では、SNS上で発生した『エコーチェンバー現象』が、ドナルド・トランプ 氏を勝利に導いたと言われています。
SNSの「タイムライン」には、各ユーザーごとに興味のある情報、「おもしろい」と思ってフォローしたユーザーの情報が中心に流れます。
この「アルゴリズム」によって、自分自身とは異なる意見そのものを見えなくしてしまい、『エコーチェンバー』によって、より自身の意見が増幅してしまうことになるわけです。
イギリスのEU離脱を問う国民投票
イギリスのEU離脱を問う国民投票でも、X(旧Twitter)において『エコーチェンバー』が発生していました。
イギリスのロンドン大学の研究チームが、15,000を超えるXのユーザーのツイートアクティビティを分析したところ、「離脱派」「残留派」ともに、メッセージの約70%は同じ意見を持っている人に向けられ、反対派に向けたメッセージはわずか約10%程度だったとされています。
『エコーチェンバー現象』が発生することによる弊害と対策方法
発生することによって生じる問題点
SNSのユーザーが「タイムライン」から自身と同様の意見や主張を見聞きし、価値観が似た不特定多数から共感を得ると、誤った情報でさえも「正しい」と思い込んでしまう危険性があるという点が挙げられます。
また、自身の意見が正しいと思い込むことによって、思考を極端にさせる可能性も生じます。
そのため、自身の主張や自身が賛同する意見や情報であれば、精査することなく誤った情報であってもシェア・拡散してしまう可能性も高まります。
発生を防ぐための方法
『エコーチェンバー』の発生を防ぐ主な方法は、以下の通りです。
●情報に接触する際、「自分がエコーチェンバー現象に囚われていないか」自問する。
●情報の「一次情報」を踏まえてから判断する。
●自分の意見や主張に賛同する人が多いとしても「多数派だ」と勘違いしない。
●「SNS上には自分とは異なる意見を持つ人が多くいる」ことを認識する。
「自分が正しい」「自分は多数派だ」と思わずに、「自分の考えや思考は偏っているかも」と疑うことが必要になります。
最後に
SNS上で自身の思考や思想が肯定され、同様の意見を見聞きし続けることによって、自身の言説が増幅・強化する現象である『エコーチェンバー』。
SNSによって世界の誰もがさまざまな情報を取得できるようになり、自身の主義・主張を発信することができるようになりました。
もちろん多くのメリットがあるのは事実ですが、『エコーチェンバー』に陥ることで思考が偏ってしまい、異なる意見は誤りであると思えてしまう可能性が高まってしまいます。
日常的に一次情報を得てから物事を判断するようにしたり、自分と異なる意見を持つ人はたくさんいることを認識し、『エコーチェンバー』に陥っていないか自問することで、SNSリテラシーが高まるようになります。
「SNSリテラシー」が高まれば、自身の主義・主張が「是」と思わずに正しい情報の取得・判断ができるようになるはずです。
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