予期せぬ事態が起こった時や危機的状況に陥った際に「大したことではない」と誤認し、事態を過小評価して平静を保とうとする『正常性バイアス』。
日常とビジネスシーンでの具体例や発生することによるメリットとデメリット、発生した際のトラブル対策について解説しています。
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『正常性バイアス』とは?
『正常性バイアス(normalcy bias)』とは、予期せぬ事態が起こった時や危機的状況に陥った際に「大したことではない」「これぐらいなら大丈夫だろう」と誤認し、事態を過小評価して平静を保とうとする心理メカニズムのことです。認知バイアスの一種として知られています。
主に災害心理学や社会心理学で用いられる心理学用語であり、「正常化の偏見」「正常への偏向」「恒常性バイアス」「日常性バイアス」とも呼ばれています。
すべての人間に備わっている心理作用で、健やかに生きるために必要な心の安定を保つメカニズムとも言えます。
過剰に反応し疲弊しないという心的ストレスを軽減するポジティブな効果もありますが、その一方で、地震や事故といった非常時や、ビジネスシーンにおけるトラブルが発生した時に「異常事態を正常の範囲内」と錯誤してしまい、リスクヘッジの遅れや損失といった悪影響を及ぼす可能性があるので、注意が必要なバイアスです。
発生するメカニズム
この『正常化バイアス』が発生するメカニズムには2つの要素があるとされています。
- 同化性バイアス:徐々に変化する事象に対して気づきにくい心理状態。異常を背景の中に埋没させてしまう「錯誤」。
- 同調性バイアス:集団と異なる行動を取りにくい心理状態。集団の規範に従ってしまう「錯誤」。
つまり、災害が起こっても「自分は逃げなくても大丈夫」という同化性バイアスと、「周囲の人が逃げていないから自分も逃げなくて大丈夫」という同調性バイアスの2つの要素によって発生しやすくなるということです。
また『正常性バイアス』は、その事象に遭遇する人数が多ければ多いほど発生しやすいという特徴があります。
『正常性バイアス』の具体例
例えば、自宅にいる時にテレビで災害情報が放送されているのを見れば、すぐに状況を確認し避難することが求められます。
しかし、実際の場合は「自分にも危険が及ぶ災害だ」と避難行動する人もいれば、「大したことがないだろう」と問題視しない人もいます。
避難すべき非常事態であるにもかかわらず『正常性バイアス』が働いてしまうと、事態を過小評価してしまうケースがあるのです。
これはビジネスシーンでも同様で、すぐに対処・リカバリーすべきトラブルが発生しているにもかかわらず、「対処するほどのことではないだろう、大丈夫」とトラブルの範疇ではないと捉えたり、「進めているこの施策が失敗するはずがない」と高をくくって、静観してしまうケースが往々にしてあります。
その結果、業績の低下や顧客の信頼を失墜させるリスクが生じてしまう可能性が高まってしまいます。
本来、心の安定を保つために作用する『正常性バイアス』ですが、上述の非常時やトラブル発生時においてはマイナスに働いてしまうことがあります。
大邱地下鉄放火事件
2003年2月に韓国の大邱市で発生した「大邱地下鉄放火事件」。
乗客による放火によって起こったこの地下鉄火災では、煙が車両内に充満していたにもかかわらず、口や鼻をおさえて座ったまま避難することなく多くの乗客が留まったこともあり、発生当時、世界の地下鉄火災規模で2番目となる死者198名、負傷者146名という大惨事となりました。
この事件のケースでは「正常性バイアスによって避難が遅れた」ことが大きな要因と考えられています。
また「火災被害はたいしたことがないのでその場に留まるように」という車内放送が流れたという証言もあり、こうした対処が『正常性バイアス』を助長した可能性があります。
東日本大震災
2011年3月11日、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が発生した東日本大震災。
この大災害でも『正常性バイアス』が大きく影響したと言われています。
男女共同参画局の「平成24年版男女共同参画白書」によると、死者数15,000人以上のうち、90%以上が津波に巻き込まれたことによる溺死とされています。
津波による死者数が多かった原因の一つとして、避難警報が出ていることを知りながらも多くの人の避難行動が遅れたことが挙げられています。
地震の発生から津波が沿岸部を襲ったのは30分程度が経過した後でした。つまり、避難する時間がある程度あったにもかかわらず「自分のいる場所は安全だろう」「大きな津波が来たことはないから大丈夫」と『正常性バイアス』が働いた結果、事態を小さく捉えてしまい避難行動の判断を妨げてしまった可能性が考えられます。
実際に、地震発生直後のビッグデータによる人々の動線解析によると、ある地域では地震直後にはほとんど動きがなく、多くの人々が実際に津波を目撃してから避難行動したため、被害拡大の一因となってしまったことが解明されています。
例えば、海外から5キロメートル離れた石巻市立大川小学校では、生徒74名と教員10名およびスクールバスの運転手が、避難先の決定を誤ったことなどにより河川を遡上してきた津波によって死亡したケースが挙げられています。
ですが、この大震災では、釜石中学校と鵜住居(うのすまい)小学校の生徒たちが率先して避難行動を取ったことで、周辺住民にも避難行動を促したという『正常性バイアス』が良い方向に働いたケースも確認されています。
御嶽山噴火
2014年9月に発生した木曽御嶽山噴火。
火口付近に居合わせた登山者ら58人が噴石や噴煙に巻き込まれて死亡、行方不明者5人という日本における戦後最悪の火山災害となりました。
死亡者の多くが噴火後も火口付近に留まり噴火の様子を写真撮影していたことがわかっており、携帯電話を持ったまま亡くなった方や、噴火から4分後に撮影した記録が残るカメラが見つかっています。
この火山災害でも「(噴火したが)避難しなくても自分は大丈夫」と『正常性バイアス』が作用してしまったと考えられています。
新型コロナウイルス感染症の拡大
2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症の流行期においても『正常性バイアス』が作用していたことが指摘されています。
世界中でパンデミックが発生し、日本でも緊急事態宣言が発令され不要不急の外出制限や3密(密閉・密集・密接)の回避など、これまでとは異なる生活スタイルを強いられることになりました。
そんな状況下において、「自分は感染しないだろう」「この程度の集まりなら大丈夫だろう」と考え外出するケースや、感染対策が不十分な行動をするケースでは『正常性バイアス』が働いていた可能性があります。
ビジネスシーン:トラブル発生時
『正常性バイアス』は、ビジネスシーンでも起こります。
マーケティング施策でいえば、「1対N」アクションの広告プロモーションやコンテンツ公開による「炎上騒動」(※)が起こった際、『正常性バイアス』が担当者・組織内で作用することで「たいした問題ではないだろう」「トラブルの範疇ではないだろう」と高を括ってしまった結果、謝罪対応に追われてしまうという事態に陥ってしまうことも。
※広告が起因となる『炎上』対策については、こちらのページ、SNS投稿や配信メール、公開コンテンツが起因となる『炎上』対策については、こちらのページをご覧ください。
マーケティング活動の一環で出稿する広告。この広告がきっかけで発生した『炎上』トラブルにどう対応するのか、そもそもトラブルを未然に防ぐには?『炎上』が起こる条件も含め解説しています!
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ビジネスシーン:ブラック企業
「働き方改革」が叫ばれている昨今において、俗に言う「ブラック企業」が一層問題視されています。
極端な長時間労働や過剰なノルマ、残業代の未払いといった劣悪な労働環境の中で、肉体的・精神的なダメージを負いつつも、生活のために離職を決断できずに在籍し続けるケースが多いのではないでしょうか。
このブラック企業に勤務し続ける多くの人には「この程度の働き方は当たり前」「ほかの企業も同じような待遇だ」など『正常性バイアス』が働いてしまうことも少なくありません。
ちなみに、時間外労働や賃金不払残業、労働問題などに関する窓口は、以下の画像のクリック先をご覧ください。
ビジネスシーン:ハラスメント行為
近年では、職場でのハラスメント行為を相談しやすくなってきています。
ですが『正常性バイアス』が働いてしまうと、ハラスメントを受けたり目撃したりしたとしても「これは(あれは)ハラスメント行為には該当しない」と思い込んでしまう可能性があります。
その結果、ハラスメント行為が起こりやすい職場環境になってしまうため注意が必要となります。
ちなみに、ハラスメント関連の相談窓口については、以下の画像のクリック先をご覧ください。
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