報酬やノルマによってやる気が削がれてしまう!?『アンダーマイニング効果』

『アンダーマイニング効果』とは?

外発的動機付けによってモチベーションを削いでしまう心理事象

アンダーマイニング効果(Undermining Effect)とは、やりがいや満足感を得るために自発的に手掛けていた行為に、金銭といった物質的な報酬などを与えてしまうことで、モチベーションを削いでしまう心理事象を指します。
別名、『抑制効果』『過正当化効果』とも呼ばれています。

より具体的に言うと、「達成したい」「やり遂げたい」という内発的動機付けによって行動することに対して、「報酬を与える」「評価をする」また逆に「圧力をかける」「罰を与える」などの外発的動機付けによって、「報酬を受けること」「圧力を回避すること」が目的となり、内発的な動機が失われて、外発的動機付けがないとやる気が削がれてしまうという事象です。

『アンダーマイニング効果』の由来

当時流行していたソマパズルを用いた実験で実証

アンダーマイニング効果は、アメリカの心理学者であるエドワード・L・デシ氏とマーク・R・レッパー氏によって、1971年に提唱されました。

両名は当時、流行していた「ソマパズル(立体パズル)」を用いて、大学生を2つのグループに分けて3つのセッションで実験を行い、この心理事象を実証しました。

セッション1:それぞれのグループにパズルを解いてもらう。

セッション2:1つのグループにはパズルが解けるたびに報酬を与え、もう1つのグループには何も告げず報酬も与えない。

セッション3:再びそれぞれのグループにパズルを解いてもらう。報酬はどちらにも与えない。

この実験の結果、何も報酬を与えられなかったグループはパズルに触れる時間の変化は見られず、報酬を与えられたグループのみパズルに触れる時間が減少しました。

報酬を与えられたグループは「パズルを解く=報酬を得るため」と感じるようになり、内発的な動機が失われモチベーションが低下してしまうことがわかりました。

『アンダーマイニング効果』を理解する際に重要な2つのポイント

内発的動機付けと外発的動機付け

アンダーマイニング効果を知るうえでポイントとなるのが「内発的動機付け」と「外発的動機付け」です。

内発的動機付け

好奇心や探求心、向上心など、本人の内面から発生する動機付け。
うまくなりたい、スキルアップしたい、時間を忘れて取り組みたいという、やりがいや興味などの自発的な意欲が例として挙げられます。

外発的動機付け

外部から与えられる動機付け。
第三者から褒められる、報酬を与えられる、評価をされる、〆切やノルマ・罰則を設けられるなどの他者からの干渉によって発生するものが例として挙げられます。

ビジネスシーンで発生する要因

やりがいを持って実施していたが、外部から動機付けをされたことで見返りのための手段に変わってしまい、「見返りがなければやる意味がない」と考えるようになり、モチベーションが低下してしまう『アンダーマイニング効果』。

ビジネスシーンで考える場合、例えば実行するタスクに対する報酬制度や評価制度の存在は有用と考えがちですが、対象となるメンバーの資質とタイミングによっては逆効果になってしまいます。

また、このアンダーマイニング効果に陥ってしまっていることを、マネジメントをする人間もされる人間も気づかないケースが少なくありません。

報酬制度を設けることで行動の行為が変わってしまう

「報酬を得ること」が目的に変化してしまう

業務に対するモチベーションを高めるために、成果を出したメンバーに報酬を与える制度を設けることは一般的ですが、業務を遂行することへの使命感や、やりがいで実施していたとしても、その行為に報酬が与えられるようになると、「報酬を得ること」が目的に変化してしまいます。

そのため、報酬制度などを取り入れる際には、内発的動機付けを損なわないようにしなければなりません。

周囲から評価を受ける

「尊敬されたい・評価されたい」

業務の成果や取り組む姿勢を評価するケースが多くありますが、メンバーによっては「周囲から尊敬されたい・評価されたい」という欲求が先行してしまい、自発性を損なうリスクが高まってしまうので注意が必要です。

「やらされている」と感じるようになる

「やらされている」と感じるようになってしまう

報酬を与えられる、評価をされる、〆切やノルマ・罰則を設けられるという外発的動機付けによって、自発的に行っていた行動が「やらされている」と感じるようになってしまいます。

もちろん、報酬や評価を得られることで意欲的に取り組むケースも考えられますが、本来、人間は自発的に行動したいという欲求を持っています。

外発的動機付けに目的が変わると「やらされている」と感じやすくなってしまい、自発的な欲求が妨げられて、やる気を失ってしまいます。

〆切やノルマ・罰則を設ける

〆切やノルマ・罰則を設定する

目標を達成させるための手段としての〆切やノルマ・罰則の設定も、アンダーマイニング効果を発生させる要因となってしまいます。

これらの外発的動機付けは、短期的にはモチベーションアップなどの効果を発揮しますが持続性がなく、達成できなかった際にストレスを生じさせてしまうというリスクがあります。
(とはいえ、ビジネスである以上、〆切はある程度必要ですが。。)

「尊敬されたい・評価されたい」という思いをかき立てて『ホーソン効果』の発生を狙うケースも

モチベーションを高めるために関心を持ってもらう・注目を浴びさせる=ホーソン効果

ちなみに「周囲から尊敬されたい・評価されたい」≒他者から関心を持ってもらう・注目を浴びることで、モチベーションを高めて結果を出そうと頑張るようになる心理事象を『ホーソン効果』(※1)と呼びます。

例えば、目標を達成したら表彰する制度を設ける、社内で特別視されるそのメンバーに選ばれたいと思い、業務意欲を高めるために特別なプロジェクトチームを設けるなどが、心理事象を発生させる方法として挙げられます。

この『ホーソン効果』は「元は自発的に意欲があり取り組んでいた」というわけではなく、業務に対するモチベーションが低い場合に用いる心理事象と言えます。

※1:モチベーションが高まり組織も活性化する!?『ホーソン効果』

ビジネスに及ぼす具体的な影響

ビジネスに及ぼす具体的な影響はさまざまありますが、代表例としては以下の3つが挙げられます。

生産性が低下する

悪影響①:生産性低下

モチベーションなく実施することになるため、集中力も下がり生産性が低下することになってしまいます。

職場の人間関係が悪化することも

悪影響②:人間関係悪化

仮に報酬制度や評価制度を設けると、競争意識が行き過ぎる場合もありますし、おのずと業績の良いメンバーと悪いメンバーが生まれ、職場の人間関係が悪化することも。

退職率が上がってしまう

悪影響③:退職者増加

業務に対するモチベーションが低下することで、退職を考えるメンバーが増えることにもつながってしまいます。

『アンダーマイニング効果』を発生させないためには?

アンダーマイニング効果を起こさないようにするための方法としては『エンハンシング効果』が有名です。

『エンハンシング効果』

やる気やモチベーションを高める心理事象を『エンハンシング効果』

アンダーマイニング効果とは反対に、やる気やモチベーションを高める心理事象を『エンハンシング効果(Enhancing Effect)』と言います。

別名『賞賛効果』とも呼ばれるエンハンシング効果は、「対象の行動や取り組む姿勢を褒める」という言語的な外発的動機付けによって、内発的動機付けが高まり、モチベーションが上がる効果です。

内面や結果ではなく行動や取り組む姿勢を褒めることで認められたという実感がわき自信がつき、自分自身でモチベーションを上げて取り組むようになります。

エンハンシング効果は、特に信頼している人や尊敬している人から賞賛される・褒められることで効果が高まります。

『エンハンシング効果』に類似した心理事象

他者から期待を受けることによって、学習や業務の成果が高まる『ピグマリオン効果』

類似した心理事象に『ピグマリオン効果』(※2)があります。

『ピグマリオン効果』とは、「他者から期待を受けることによって、学習や業務の成果が高まる」という心理現象。

上司が期待をかけて指導すると、部下はその期待に応えようと思いモチベーションが上がり一生懸命に取り組むようになります。
その結果として、成長につながり良い業務成果が出るようになることが期待できます。

※2:期待する・褒めることで成果が高まる!?『ピグマリオン効果』

どちらも、言語的な外発的動機付けによってモチベーションを高めるという点、「褒め過ぎ」に注意する点、そして対象よりも目上の立場の人間から期待されることで効果をより発揮するという点で共通しています。

最後に

『アンダーマイニング効果』と『エンハンシング効果』を理解してマネジメントを

やりがいを持った組織づくりを目指してマネジメントをする際には、内発的動機付けをベースに取り組んでいるメンバーに『アンダーマイニング効果』を発揮させないよう、もしもの時のための『エンハンシング効果』と併せて理解することが必要になります。

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