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『損失回避バイアス(損失回避の法則)』とは?
人間は、利得と損失を比較する際、損失の方をより重大だと感じやすく、損失を回避しようとします。この心理的傾向のことを『損失回避バイアス(損失回避の法則)』と呼びます。ほかにも『損失回避性』とも呼ばれています。
人間は何かを失うことを極端に嫌う傾向があるため、得をするよりも損をしたくないと感じ、損を回避したいと強く思う心理、のことを指します。
理解しやすい例としては下記のようなものです。
①満足度90%の●●
②10人に1人は満足できない●●
この2つの選択肢は、同じ意味の事象を指していますが、多くの人間は感覚的に①の方を選ぶ傾向があります。
②は「損失に焦点を当てた選択肢」に該当するため、上述の『損失回避バイアス(損失回避の法則)』がかかりやすくなります。
由来
この『損失回避バイアス(損失回避の法則)』は、2002年のノーベル経済学賞の受賞者で行動経済学の先駆者として知られているダニエル・カーネマン 氏と心理学者のエイモス・トヴェルスキー 氏によって、『プロスペクト理論』の一部として提唱されました。
ちなみに、ほかにも『フレーミング効果』や『アンカリング効果』、『保有効果』といった心理事象も提唱しています。
損失の心理的な影響は利益の約2倍
損失回避バイアスの指標を図るうえで有名な例が「コイントスゲーム」です。
表と裏が出る確率がそれぞれ50%のコイン。コインを投げて表が出れば1,500円をもらえるが、裏が出た場合は1,000円を支払わなければならないというルールのゲームへ人々は参加するかどうか。
確率で見ると、表が出るのも裏が出るのも確率は同じであるため、もらえる金額の方が多いので参加すべきと言えますが、実際には多くの人が難色を示すとされています。
利得と損失の間にどの程度の開きがあれば釣り合うのか、という『損失回避倍率』について多くの実験が行われた結果、(個人差はあるものの)損失の1.5~2.5倍の利得がある時に、損得が釣り合うと感じることが明らかになっています。
これは、損失の心理的な影響が、利益の心理的な影響の約2倍もあるということを意味しています。
なぜ発生するのか?
この『損失回避バイアス(損失回避の法則)』が発生するのは、人間の古来からの生存本能が要因として挙げられます。
現代と比べて、天変地異や伝染病、食糧の枯渇や動物に襲われるなどの脅威が身近だった旧時代の人類。
それらの脅威に対して生存を維持し繁栄を続けるために、立ち向かう以上に避けることに適応しなければなりませんでした。そのため、人間の脳が自身に降りかかる危険・リスクや損失を回避するよう進化したと思われます。
こういった旧時代の進化によって得られた本能が現代の人間にも残存し、行動や意思決定の際に損失を避けることを重視するようになっています。
『損失回避バイアス(損失回避の法則)』とほかの心理効果との関係性
直感や経験による先入観によって合理的でない判断をしてしまう心理現象である『認知バイアス』の一種である『損失回避バイアス(損失回避の法則)』。
この『損失回避バイアス(損失回避の法則)』によって発生する心理事象や、派生した心理事象が複数あります。
デッドライン効果
実行する・決定することを促すために「目標や締切、期限」を設定する『デッドライン効果』。
認知バイアスの一つです。端的に表現すると「設定された目標や締切、期限を逃すことによる損失を避けたい」という心理的傾向です。
なかなか購入に至らない・・・そんな時に背中を押す『デッドライン効果』について解説しています!
アンカリング効果
最初に与えられた価格といった情報(アンカー)によって意思決定に影響を及ぼす『アンカリング効果』。
認知バイアスの一つです。端的に表現すると「値下げが一般的な商品を定価(アンカー)のままで購入すると損失が生じてしまうので回避したい」という心理的傾向です。
最初に与えられた情報(アンカー)によって意思決定に影響を及ぼす『アンカリング効果』。ビジネスシーンでの活用例や注意点について解説します!
スノッブ効果
多くの人が所有していないモノに価値を感じて「他人とは違うモノが欲しい」という購買意欲が働く『スノッブ効果』。
認知バイアスの一つです。端的に表現すると「限定的・希少性が高いモノの入手機会の損失を避けたい」という心理的傾向です。
多くの人が所有していないモノに価値を感じて「他人とは違うモノが欲しい」という購買意欲が働く『スノッブ効果』。活用例や注意点について解説!
フレーミング効果
同じ意味の事象でも、伝え方や表現を変えることで、与える印象を変えることができる『フレーミング効果』。
認知バイアスの一つで、『損失回避バイアス(損失回避の法則)』によって発生する心理事象とされています。
端的に表現すると「利益ではなく損失を強調することで損失を回避したいと思うようになる」という心理的傾向です。
同じ事象でも伝え方や表現を変えることで相手に与える印象を変え、意思決定にも影響を及ぼすことができる『フレーミング効果』。メカニズムやビジネスシーンでの活用例について解説しています。
コンコルド効果(サンクコスト効果)
特定の対象への金銭的・精神的・時間的投資の継続が、損失リスクの拡大につながるとわかっていても、それまでに費やした投資を惜しんで、投資をやめられない心理現象である『コンコルド効果』(サンクコスト効果)。
認知バイアスの一つで、『損失回避バイアス(損失回避の法則)』によって発生する心理事象とされています。
端的に表現すると「損失が拡大するとわかっていながらもやめられない」という心理的傾向です。
多数派が少数派に価値観を暗黙的に強制する『同調圧力』。なぜ発生するのか、メリットやデメリット、日本でよく見受けられる理由やビジネスへの応用について解説しています。
現状維持バイアス
何かを変化させれば現状がより良くなる可能性があるとしても、損失の可能性を考慮して現状を保持しようとする『現状維持バイアス』。
これも認知バイアスの一つとされ、『損失回避バイアス(損失回避の法則)』から派生した心理事象とされています。
端的に表現すると「損失したくないから(変化せず)現状維持したい」という心理的傾向です。
何かを変化させれば現状がより良くなる可能性があるとしても、損失の可能性を考慮して現状を保持しようとする『現状維持バイアス』。発生する要因や発生例、予防策・克服方法について解説しています。
保有効果
一度所有したモノや環境に(高い)価値を感じて、それを手放すことに抵抗を感じるようになる『保有効果』。
これも認知バイアスの一つで、『損失回避バイアス(損失回避の法則)』によって発生する心理事象とされています。
端的に表現すると「保有したモノを手放す≒損失を生じさせたくない」という心理的傾向です。
一度所有したモノや環境に(高い)価値を感じて、それを手放すことに抵抗を感じるようになる『保有効果』。発生する要因やマーケティングシーンでの活用例などについて解説しています。
デフォルト効果
最初に選択されている意思決定や、設定されている初期値(デフォルト)に従ってしまう・そのまま受け入れやすくなってしまう『デフォルト効果』。
『現状維持バイアス』などによって発生する心理事象とされています。
端的に表現すると「安定している初期値を変えることによる損失リスクを避けたい」という心理的傾向です。
最初に選択されている意思決定や、設定されている初期値(デフォルト)に従ってしまう・そのまま受け入れやすくなってしまう『デフォルト効果』。発生させる心理的メカニズムやビジネスシーンにおける発生例などについて解説しています。
『損失回避バイアス(損失回避の法則)』の具体例
ギャンブル
「もう後には引けない!」「これまで注ぎ込んだ分を取り返すぞ!」と躍起になって、損失が拡大するとわかっていても進めてしまうという例。
転職せずに在籍し続ける
世に言う「ブラック企業」のような劣悪な待遇の企業であっても、「転職しても、もっと悪い環境の職場なのでは?」という不安から「(転職することによる)損失を回避したい」という心理が働いています。
『損失回避バイアス(損失回避の法則)』のビジネスシーンへの応用例
期間限定キャンペーン
「30日間限定」や「本日15時までのセール」などの期間を限定されると、その「期限を逃すことによる損失を避けたい」と消費者の購買意欲がかきたてられる可能性が高まります。
BtoCであればテレビCMなどでよく見かける「今から30分間だけの特別セール」や「本日限りの大特価」「これが最後のチャンス!」などの手法がありますが、BtoBの場合は購入まで一定期間を要する(※)ので、よほど安価でないと向かない施策と言えます。
※BtoBの商文化に関しては、下記ページをご覧ください。
BtoB(企業間取引)ビジネスならではの特性について理解が進んでいないと「マーケティング活動で成果が出ていない」と誤解されてしまうかもしれません。BtoB文化や商習慣などおさえておくべきポイントを解説します。
通常価格の〇%引き
「〇月〇日〇時までにご注文いただいた方には、通常価格△円の□%引きの◇円」といったように、元の価格をアンカー(基準値)にして併せて値下げ後の価格も提示することで、「購入しないと損失が生じてしまう」と感じやすくなるという損失を演出できやすくなります。
地域限定販売品
「この地域だけで限定販売している〇〇」と目にすると、「入手機会の損失を避けたい」と購買意欲が高くなる傾向があります。
これは、販売地域が限定されていることで、希少性や限定性が高まることが起因しています。
追加で購入分は無料パターン
例:1枚買ったら2枚目は無料!
1枚¥1,000のピザを買う場合、「50%OFF」でも「2枚目は無料」でも、支払うのは同じ¥1,000となりますが、例のような「無料」とアピールする方がインパクトを与えやすくなります。
割引する・クーポン券を配布
期間や使用頻度を限定したクーポン券を配布することで、顧客や消費者は「割引を受ける権利を得た」と感じるようになり、「手に入れた割引を受ける権利を失いたくない」と保有効果が働き、購買意欲を高める機会が生まれます。
メールマガジンの配信停止
受信しているメールマガジンの配信停止も、所定の手続きをすれば(多くは)すぐにできるものですが、「停止してしまうとそれまで届いていた有益な情報が得られなくなってしまう(損失してしまう)」と考え、損失リスクを避けるためにそのまま受信し続けるというケース。
最後に
利得と損失を比較する際、損失の方をより重大だと感じやすく、損失を回避しようとする心理的傾向である『損失回避バイアス(損失回避の法則)』。
人間に本能的に備わっている心理事象なので、商談などのセールスや広告やキャッチコピーなどのマーケティングといったビジネスシーンで活用することによって、顧客や消費者の購買意欲を高めることが期待できます。
『損失回避バイアス(損失回避の法則)』を解説したこのページをまとめたPDFデータを無料でプレゼント!
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