従業員の離職を防ぎ、継続的に能力を発揮してもらうための戦略的な人事施策を意味する『リテンションマネジメント』。
注目されている理由や取り入れるべき企業の特徴、取り組むことによって得られるメリットや企業での実践事例、
実施する際のポイントと実施方法について解説しています。
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注目され始めている「人材流出の防止策」

採用市場が厳しさを増し、流動性が高まる昨今。
企業経営に欠かすことのできない人材をどう確保するかが重要な課題になっています。
そこで、人材の新規採用だけでなく、離職(流出)させずに「定着」を促す人事施策に注目が集まるようになっています。
『リテンションマネジメント』とは?

従業員の離職を防ぎ、継続的に能力を発揮してもらうための戦略的な人事施策を意味する『リテンションマネジメント』。
「維持、引き留め」を意味するリテンション(Retention)と、「経営・組織などの管理」を意味するマネジメント(Management)を合わせた造語です。
単なる「引き留め」ではなく、人事評価制度やキャリア構築支援、良好な職場環境の整備を通じて「働き続けたい動機」を自発的に生み出し、活躍してもらうことを目的にしています。
なぜ『リテンションマネジメント』が注目されているのか?

この『リテンションマネジメント』は、以下の社会的変化を背景に注目されるようになっています。
- 少子高齢化の影響による「労働力不足」の深刻化
- 人材の「流動化」
- 「働き方」「価値観」の変化
少子高齢化の影響による「労働力不足」の深刻化

少子高齢化が進む日本では、経済を支える労働者世代(15歳~64歳)の人口が減少し続けており、年々労働力不足が深刻化しています。
もちろん新規採用も重要ですが、こういった変化を背景に、今後は人材を流出させないための施策も必要になる、というわけです。
人材の「流動化」

年功序列や終身雇用制度がメジャーなものではなくなり、もはや「若年層の早期離職・転職」は当たり前になっています。
「自身が求める労働条件や環境とのミスマッチが生じるのであれば転職すればよい」と考えることが一般的になっているのです。
そのため、自社から人材が流出しないよう、『リテンションマネジメント』に取り組む企業が増えているのです。
「働き方」「価値観」の変化

「働き方改革」によって、働く側の意識が変わったことも、『リテンションマネジメント』の必要性を高めている要因の一つです。
ワークライフバランスや理想の働き方が重要視されるようになり、「自身の希望や価値観と合致しない環境なら転職すればよい」となってしまうというわけです。
『リテンションマネジメント』を取り入れるべき企業の特徴

どんな企業でも、自社の成長には優秀な人材を確保する必要がありますが、特に以下の特徴が当てはまる企業は、『リテンションマネジメント』に取り組む必要があります。
- 「離職率が上昇」傾向にある
- 採用活動が「難航」している
- 「企業体制を変更する」予定がある
「離職率が上昇」傾向にある

離職率の上昇は、単純に労働力の減少だけでなく、金銭的・時間的コストの増加や従業員が保有するスキル(ノウハウ)の喪失、残る従業員の業務負担などにもつながる問題です。
そのため、上昇傾向を放置してしまうと、人材の採用コストの増加や退職者の連鎖などが生じるリスクが高まるため、『リテンションマネジメント』を実施して離職を抑制することが求められます。
採用活動が「難航」している

少子高齢化による労働力不足や人材の流動化、グローバル化・デジタル化の発展やAIの導入・普及などによって、企業の人材獲得競争は激化しています。
そんな企業は『リテンションマネジメント』を実施して、「ここで働きたい」という魅力を強め、定着率を高めれば企業イメージも改善され、巡り巡って応募者の増加が期待できるようになります。
「企業体制を変更する」予定がある

今後、企業内制度や組織改革を予定している企業は、『リテンションマネジメント』の実施が求められます。
企業体制を変化させる際には、ポジティブな事柄であったとしても不平不満が生じやすくなってしまうからです。
そういった感情が積もり積もれば、離職の引き金になってしまうリスクが高まってしまうので、対策を講じる必要があります。
『リテンションマネジメント』に取り組むことによって得られるメリット

『リテンションマネジメント』に取り組むことによって、以下のようなメリットを享受することができるようになります。
- 「エンゲージメント」が高まり定着率アップ
- 「採用コスト」や「教育コスト」の低減
- 「長期的な事業計画」を立てやすくなる
- 「生産性」の向上
- 「情報漏洩リスク」の低減
- 「顧客満足度」の向上
- 「企業イメージ」がアップ
「エンゲージメント」が高まり定着率アップ

『リテンションマネジメント』を実施することで、「働きやすい」職場環境を構築したり、「働き続けたい」とやりがいを見出せるようになると、従業員の「エンゲージメント」が高まりやすくなります。
「採用コスト」や「教育コスト」の低減

新たな人材を採用しようとすると、求人広告費やエージェント費用、教育コストなど、さまざまな金銭的負担が生じるようになります。
『リテンションマネジメント』を実施して離職者を減らして定着率が上がれば、採用や教育に関するコストカットにつながるのです。
「長期的な事業計画」を立てやすくなる

企業が成長し続けるためには、長期的な目線で事業計画を練ったり新規事業に取り組むことが求められます。
『リテンションマネジメント』で離職者が減少すれば、社内にスキルやノウハウが蓄積するようになり、事業計画や人員計画(人材配置)をしやすくなるのです。
「生産性」の向上

『リテンションマネジメント』によって従業員が離職せず定着することで、スキルやノウハウの引継ぎ機会が減少するため、業務効率や生産性が高まりやすくなります。
「情報漏洩リスク」の低減

『リテンションマネジメント』で離職者が減ることで、退職者による経営状況や財務、技術的ノウハウといった重要な情報が流出することなく社内に蓄積されやすくなることもメリットの一つと言えます。
「顧客満足度」の向上

『リテンションマネジメント』の効果は社内だけに留まりません。
従業員の定着率が高まれば、継続的に顧客とのコミュニケーションがとれるため、スムーズに対応できるとともに顧客側も安心感を得やすくなります。
その結果、顧客満足度が高まりやすくなるのです。
「企業イメージ」がアップ

離職率が高くいつも人材募集をしている企業は、外部から見て「すぐ辞めてしまう、定着しない職場環境なのだろう」と思われてしまいます。
『リテンションマネジメント』によって、従業員の離職率が減り働き続けるようになれば、求職者からの応募が増えたり、ステークホルダーなどからのイメージアップにつながりやすくなるのです。
『リテンションマネジメント』の実践事例

『リテンションマネジメント』によって離職率の低下や労働環境の改善などを実現した企業の、代表的な実践事例は以下の通りです。
- トヨタ自動車株式会社
- サイボウズ株式会社
- クックパッド株式会社
トヨタ自動車株式会社

愛知県豊田市トヨタ町に本社を置く、日本最大手の自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社では、従業員が働きやすい環境を整備するために、さまざまな『リテンションマネジメント』を実施しています。
具体例としては、2021年と2024年の制度改革によって「年功序列制度」を廃止し、完全な成果主義・実力主義へと移行しました。
また、優秀な人材は定年後も同待遇で働き続けることができる「再雇用制度」、従業員自身が選ぶことができる「選択型福利厚生制度」なども導入したこともあり、2019年~2022年までの3年間の離職率を「約1%」に抑えることができたことで知られています。
サイボウズ株式会社

東京都に本社を置く日本のソフトウェア開発会社であるサイボウズ株式会社では、2005年当時、離職率が28%にまで上昇してしまい、多数の『リテンションマネジメント』施策に着手することになりました。
具体例としては、別部署に所属する従業員を5名以上集めると部活動を始めることができる「社内部活動」が挙げられます。
社内のコミュニケーションを活発化させ、業務の効率化やスピードアップを狙った施策で、活動費も補助しています。
こういった施策の効果もあり、2010年には離職率を5%前後まで低下させることができました。
クックパッド株式会社

東京都に本社を置く日本のフードテック企業であるクックパッド株式会社では、能動的に新規事業を促進する組織体制の構築や、成長意欲を満たす環境整備などの『リテンションマネジメント』を実施しています。
具体的には、従業員が一つのサービスを企画から開発、運用までを一貫して担当でき、自身のアイデアを形にできる「一人一人サービス」、また金曜日は通常業務以外の改善や技術研鑽に割り当てることを推奨などを行い、高い人材定着率(リテンション)を維持しているのです。
『リテンションマネジメント』を実施する際のポイント

『リテンションマネジメント』を実施する際のポイントとしては、以下の点が挙げられます。
- 「適正な」人事評価の実施
- 「透明性のある」給与体系の確立
- 「キャリア開発」と「成長機会」の提供
- 「権限」を付与する
- 「柔軟な働き方」ができる制度の整備
- コミュニケーションの「活性化」
「適正な」人事評価の実施

従業員の業務に対する姿勢や実績について「適切に」評価を行うことは、従業員の定着・継続的な活躍をする上で重要な要素になります。
正当に評価されることで、在籍企業への貢献度を実感でき、モチベーションアップにつながり、「この企業で頑張ろう」という意欲が湧いて人材流出を食い止めることができるようになるのです。
「透明性のある」給与体系の確立

適切な人事評価と併せて、客観性の担保された給与体系を確立することも、従業員の離職防止には欠かせません。
どういったルールで人事評価しそれを給与に反映するか。透明性のある給与体系にするための見直しが必要になります。
「キャリア開発」と「成長機会」の提供

従業員が在籍する企業で将来のビジョンを見通せるよう、キャリアプランの構築と成長機会の提供を進めることも、『リテンションマネジメント』の要素に一つとなります。
新たなスキルを習得するための研修や、休職者向けのリスキリング制度を設ける、定期的に部署異動の希望調査を実施するなど、従業員が在籍企業での先々のキャリアを明確にイメージできるようにすることで、離職・流出を防ぐことにつながります。
「権限」を付与する

業務実績を挙げている優秀な従業員に対しては「裁量権」を与えることで、仕事のモチベーションとともに能力を高める機会を提供することも求められます。
「柔軟な働き方」ができる制度の整備

透明性のある給与体系や適性な人事評価制度だけでなく、ライフステージの変化に対応した、育児・介護支援制度や柔軟な働き方(リモートワークや時短勤務など)を実現する制度を整備することで、従業員は安心して働き続けられるようになります。
コミュニケーションの「活性化」

社内のコミュニケーション機会を増やすことも、『リテンションマネジメント』の大きな要素の一つとなります。
1 on 1 ミーティングなど、上司とコミュニケーションが活発になれば意思疎通が図りやすくなるため、従業員も働きやすさを感じやすくなり、またマネジメント側も離職の兆候を早期に察知することができます。
また、定期的な社内イベントや「サンクスカード」の導入など、従業員間でのコミュニケーション機会を増やすことで、仲間意識が生じやすくなるため、会社・部署に対する帰属意識も高まることでしょう。
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