相手に「価値」を感じてもらいやすくなる!?『ピークエンドの法則』

過去の出来事を評価する際に、途中経過よりも「絶頂(ピーク)」と「最後(エンド)」の印象によって全体を判断する『ピークエンドの法則』
実証に寄与した実験や日常生活での発生シーン、ビジネスシーンへの活用例などについて解説しています。

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『ピークエンドの法則』とは?

全体の評価を「ピーク」「エンド」の印象で決める心理的な法則

『ピークエンドの法則』とは、過去の出来事を評価する際に、途中経過よりも「絶頂(ピーク)」と「最後(エンド)」の印象によって全体を判断する心理事象のことです。

つまり、何かの経験や出来事に対する印象は、最も感情が高まった時か最後の印象で決まってしまうという法則です。

行動経済学者が提唱

この『ピークエンドの法則』は、行動経済学者のダニエル・カーネマン 氏によって、1999年に発表した論文の中で提唱されました。

実証に寄与した「苦痛」に関する実験

有名な3つの実験

内視鏡検査による実験

①内視鏡検査による実験

提唱したダニエル・カーネマン 氏らが「人間は経験に対してどんな評価を下す傾向があるのか?」を調べるために行ったのが「内視鏡検査」

大腸の内視鏡検査を受ける154名の患者に、1分ごとに検査中に感じた痛みを「0(痛みなし)」から「10(強い痛み)」の「10段階」で評価してもらいました。

患者Aと患者Bの実験結果

上のグラフ(※)は、この実験に参加した患者Aと患者Bの、痛みの時間推移を表しています。

  • 患者A:検査時間は8分、痛みのピークは「8」、その後は「0」の痛みなしが続きそのまま終了。
  • 患者B:検査時間は24分、痛みのピークは中盤に「8」、その後は痛みの程度が低下し終了。

この2名に検査中に感じた苦痛を評価してもらった結果、意外にも「苦痛を感じた度合いは(患者Bよりも)患者Aの方が高かった」ことが明らかになりました。

事前の想定では、図の「斜線部分の総面積の多さ=苦痛の強さ」としており、患者Aの方が総面積が少ないため、苦痛の強さは患者Bと比較すると少ないと考えていたからです。

この実験結果には、『ピークエンドの法則』が働いたと考えられます。つまり、痛みの最大値(ピーク)と終了値(エンド)の平均が総合評価に影響するということです。

患者Aを見てみると、痛みのピークは「8」、痛みの終了値は「7」で平均値は「7.5」。一方、患者Bはピークが「8」、エンドが「1」で平均は「4.5」となるため、患者Aの方が苦痛を感じたと評価したわけです。

また、患者Aは8分、患者Bは24分と、患者Bの方が検査時間が長い=苦痛を感じる時間が長かったのですが、評価にそれほど影響を及ぼさなかったことも明らかになりました。この事象は「持続時間の無視」と呼ばれています。

この実験により、記憶に基づいて苦痛の経験を評価する際、最大時(ピーク)と終了時(エンド)の苦痛が大きく影響を及ぼしますが、苦痛の持続時間はほとんど影響を及ぼさないことが判明しました。

※池田まさみ・森津太子・高比良美詠子・宮本康司 (2020). ピーク・エンドの法則 錯思コレクション100
https://www.jumonji-u.ac.jp/sscs/ikeda/cognitive_bias/cate_m/m_10.html (2024年2月7日アクセス)

冷水実験

②冷水実験

冷水実験も有名です。

1回目は、片手を14℃の水に60秒間入れます。14℃なので冷たいとはいえ我慢できる程度の温度です。

そして2回目は、もう片方の手を1回目と同じように14℃の水に60秒間入れた後、手を15℃の水に30秒間入れます。

本来であれば、2回目の実験の方が1回目よりも30秒間、余計に不快な経験をしているのでより苦痛に感じるはずですが、実験に参加した8割の人が「2回目の方が苦痛が和らいだ」と回答しています。

騒音実験

③騒音実験

1番目のグループの人々に対して大音量の不快に感じる騒音を聴いてもらい、2番目のグループには1番目の人々と同じ大音量の騒音を聴いてもらった後、少し音量を抑えた騒音を聴いてもらいました。

その結果、2番目のグループの方が1番目のグループよりも騒音という不快感を長く引き伸ばされたにも関わらず、騒音聴取の体験に対する不快さは、1番目のグループの人々よりも低い評価となりました。

この騒音実験と上述の冷水実験では、「最初から最後まで同じ苦痛を感じ続けるよりも、同じ苦痛を同じ時間感じた後にそれよりも軽度の苦痛を感じて、最後の印象がやわらいだ方が全体の印象が良くなる」ことが明らかになりました。

これらの実験結果によると・・・

「経験と記憶に不一致」が生じやすい

人間はある事象を経験した後に、経験したことの評価や印象を質問されると、記憶を頼りに評価をすることになりますが、これらの実験結果を見ると、評価する際に「経験と記憶に不一致」が生じています。

つまり人間は、コンピューターのように物事や事象を完全に記憶することができないため、「最大値(ピーク)」と「終了値(エンド)」の印象によって評価しやすい傾向があるということです。

日常生活での発生シーン

映画や行列店、テーマパークや花火大会など

映画のおもしろさ

①映画のおもしろさ

例えば、映画を見る時。「おもしろい」かどうかを、その映画のクライマックスとエンディングだけを重視することも『ピークエンドの法則』の発生シーンの一つと言えます。

所々のシーンがあまりおもしろくなかったとしても、クライマックスとエンディングがおもしろければ、「(総じて)おもしろい映画」と判断する人が多い傾向があります。

長時間並ぶ行列

②長時間並ぶ行列

人気のある飲食店やテーマパークでは、自分の順番が来るまで数時間かかることも当たり前。

しかし、実際に食事やアトラクションを楽しめる時間は数分から十分程度で、それほど長くはありません。

普通に考えると理不尽な時間配分ですが、記憶には長時間並んだことを忘れ、「ピーク」と「エンド」の印象しか残らないため、最終的には「美味しかった」「楽しかった」という前向きな感情になります。

「並んでももう一度行きたい!」と思いやすくなる

そのため、もう一度行列に並んででも、食事やアトラクションを楽しみたいという心理効果が生じやすくなります。

そして、飲食店やテーマパーク側は、待ち時間の短縮よりも、提供するサービスの質を高めることにこだわるのです。

花火大会の打ち上げプログラム

③花火大会の打ち上げプログラム

ほかにも、花火大会での花火の打ち上げにも『ピークエンドの法則』が発揮しています。

花火大会で打ち上げられる花火は、ただ単調に打ち上げているわけではありません。単調なパートと盛り上げるパートで明確に演出を変えています。

例えば、大量の花火を終盤(クライマックス=エンド)に打ち上げることで、来場者などに深く印象付けることができ、花火大会に対する評価が高まり「また来年来たい・見たい」とリピート客を増やすことを促しています。

この続きでは、『ピークエンドの法則』のビジネスシーンへの活用例について解説しています。

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