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『現状維持バイアス』とは?
『現状維持バイアス』(status quo bias)とは、何かを変化させることで、現状がより良くなる可能性があるとしても、損失の可能性を考慮して、現状を保持しようとする心理事象を指します。
仮に有益であったとしても、知らないことや経験したことがないことは「安定した状態がなくなってしまう」とマイナス思考になり受け入れたくない、失敗を恐れて現状に留まりたいという心理傾向とも言えます。
現状維持バイアスの由来
現状維持バイアスの心理事象は、1988年に経済学者のリチャード・ゼックハウザー氏と、ウィリアム・サミュエルソン氏によって提唱されました。
現状維持バイアスが発生する要因
現状維持バイアスが発生するのは、主に3つの心理的な作用が影響しています。
①損失を回避したい
損失を回避したい=『損失回避性』については、「コイントスゲーム」の例が知られています。
表と裏が出る確率がそれぞれ50%のコイン。コインを投げて表が出れば1,500円をもらえるが、裏が出た場合は1,000円を支払わなければならないというルールのゲームへ人々は参加するかどうか。
確率で見ると、表が出るのも裏が出るのも確率は同じであるため、もらえる金額の方が多いので参加すべきと言えますが、実際には多くの人が難色を示すとされています。
人間は何かを失うことを極端に嫌う傾向があるため、利得と損失を比較すると、損失の方を重大に感じやすく、損失を回避しようと意思決定や行動をする心理傾向があります。これを『損失回避バイアス(損失回避の法則)』と呼びます。
利得と損失の間にどの程度の開きがあれば釣り合うのか、という『損失回避倍率』について多くの実験が行われた結果、(個人差はあるものの)損失の1.5~2.5倍の利得がある時に、損得が釣り合うと感じることが明らかになっています。
この損失回避の倍率を下回る場合、損失が生じる可能性があるため、人は行動を起こす必要性を感じずに現状のままでいようするわけです。
※『損失回避バイアス(損失回避の法則)』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
利得と損失を比較する際、損失の方をより重大だと感じやすく、損失を回避しようとする心理的傾向である『損失回避バイアス(損失回避の法則)』。なぜ発生するのか、ほかの8つの心理効果との関係性、具体例やビジネスシーンへの応用例などについて解説しています。
②慣れ親しんだモノが良い
『保有効果』が働くことで「慣れ親しんだモノを選ぼう」とする心理が働くようになります。
『保有効果』とは、一度手に入れたモノに対して、自分の手元になかった時よりも価値が高いと感じ、手放すことに抵抗を感じる事象を指します。
※『保有効果』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
一度所有したモノや環境に(高い)価値を感じて、それを手放すことに抵抗を感じるようになる『保有効果』。発生する要因やマーケティングシーンでの活用例などについて解説しています。
③最初の状態のままでいたい
『デフォルト効果』によって「現状を損失することを恐れて、最初の状態・設定から変更したくない」という心理が働くことも、現状維持バイアスが発生する要因の一つです。
※『デフォルト効果』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
最初に選択されている意思決定や、設定されている初期値(デフォルト)に従ってしまう・そのまま受け入れやすくなってしまう『デフォルト効果』。発生させる心理的メカニズムやビジネスシーンにおける発生例などについて解説しています。
現状維持バイアスの発生例
飲食店でいつも同じメニューを頼む
飲食店でいつも同じメニューを頼むのも、現状維持バイアスの一つ。
同じ店に行き、同じ席に座り、いつもと同じメニューを注文するのは「慣れ親しんだモノが良い」心理や、「(変えることによる)損失を回避したい」という心理が働いています。
転職せずに在籍し続ける
世に言う「ブラック企業」のような劣悪な待遇の企業であっても、「転職しても、もっと悪い環境の職場なのでは?」という不安から「(転職することによる)損失を回避したい」という心理が働いています。
※『転職』に関しては、こちらのページをご覧ください。
「転職」の検索結果一覧です。Just another WordPress site
配信拒否せずにメルマガを受け取り続ける
マーケティング活動の一つであるメールマガジンの配信(リードナーチャリング)も、現状維持バイアスが発生する例と言えます。
受信側からすると「(メリットのあるメールマガジンを)配信拒否することによる損失を回避したい」と考えるため、迷惑メールフォルダに移動させたり配信拒否することなく、受信するメールを閲覧することをきっかけに継続的なコミュニケーションが可能になります(有益な情報をメールマガジンで配信していることが前提になりますが)。
※『リードナーチャリング』に関しては、こちらのページをご覧ください。
「ナーチャリング」の検索結果一覧です。Just another WordPress site
旧来にこだわって切り替えない・取り入れない
企業組織においては、新しいシステムやツール、制度の方が優れているにも関わらず、旧来のものにこだわって切り替えない・取り入れないという現象も、現状維持バイアスの一つ。
変えないことによるメリットももちろんありますが、優れている方に切り替えないことで、業務改善・効率化や組織の改革が進まないというデメリットが生じるリスクが。
現状維持バイアスに陥らない・克服するためにはどうすれば?
『現状維持バイアス』を理解・認識する
まず、現状維持バイアスを理解し、自身が現状維持バイアスの影響を受けていることを認識することが重要となります。
「現状維持バイアスの影響を受けている」と指摘されても、なかなか理解することはできません。
そのため、自分自身に「この判断は現状維持バイアスの影響を受けているのではないか」と問いかける姿勢が求められます。
数値やデータで客観視する
個々人の感覚や感情で主観的に考えるのではなく、数値やデータを用いて客観視することも有効です。
メリットとデメリットを書き出して客観視する
メリットとデメリットを書き出してみることも、現状維持バイアスを予防する・克服するために有用です。
具体的に良し悪しを言語化することで、客観的な判断をしやすくなります。
(信頼度の高い)第三者の意見を取り入れる
専門的な知識を有し、信頼度の高い第三者からの客観的な意見を取り入れることで、現状維持バイアスを回避しやすくなります。
最後に
何かを変化させれば現状がより良くなる可能性があるとしても、損失の可能性を考慮して現状を保持しようとする『現状維持バイアス』。
多くのケースは、損失を出したくない・失敗したくないという心理作用から生じますが、企業組織のビジネスでも個人の人生においても、恐れずに変化を決断しなければ、そのタイミングは凌げたとしても将来的に損失を被ることもあります。
もちろん、現状を維持させることにメリットがある場合もありますが、客観的・合理的に判断ができるように『現状維持バイアス』という心理事象を理解しておくことが必要です。
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