意思決定をする時に、自分が入手しやすい情報や、印象に残っていること、思い出しやすいデータなどを基準に
直感的に選択を行う『利用可能性ヒューリスティック』。発生するメカニズムや日常で発生する4つのシーン、
ビジネスへの活用例や悪影響を防ぐ方法について解説しています。
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『利用可能性ヒューリスティック』とは?
『利用可能性ヒューリスティック((Availability heuristic))』とは、意思決定をする時に、自分が入手しやすい情報や、印象に残っていること、思い出しやすいデータなどを基準に直感的に選択を行う思考方法のことです。
認知バイアスの一つとして知られ、『想起ヒューリスティック』とも呼ばれています。
人間にとって、どんな些細なことでも「決断する」のは、脳に対してストレスや認知的負荷を課すことになります。
そのため『利用可能性ヒューリスティック』では、「最短で最も効果の高い(と思われる)方法」を、自身の過去の経験や印象的な記憶、近しい人の口コミや見聞きしたニュースなどの情報から呼び出し、その情報を優先的にして判断します。
結果として素早く判断でき思考負担は軽減できますが、一定の偏り(バイアス・思い込み)が生じることもありますが。
この『利用可能性ヒューリスティック』を活用した有名な例としては、Apple社の共同創業者の一人であるスティーブ・ジョブズ 氏。
スティーブ・ジョブズ 氏は、黒のタートルネックにブルージーンズ、トレーナーという服装を毎日着ていました。
なぜかというと、日常生活における「意思決定」「決断」を簡略化してストレスを軽減しつつ、より重要な仕事への「決断」に費やすリソースを確保するために節約していたのです。
ちなみに、スティーブ・ジョブズ 氏が毎日同じ服装をするようになったきっかけは、尊敬していたSONYの創業者である盛田 昭夫 氏から影響を受けたことが知られています。
『利用可能性ヒューリスティック』を提唱したのは?
この『利用可能性ヒューリスティック』は、認知心理学者であるエイモス・トベルスキー 氏と、同じく認知心理学者でありノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン 氏の共同研究によって発見・提唱されました。
そもそも『ヒューリスティック』とは?
『ヒューリスティック(ヒューリスティックス)』とは、自身の経験や先入観などに基づく直感が、意思決定に影響を与えることを指す心理学用語の一つです。
「発見的手法」や「発見的探索」、「経験則」とも呼ばれており、自身の感覚や推論に基づいて判断することになるため、矛盾や破綻のない論理的思考である『ロジカルシンキング』や、コンピュータのプログラムなどに活用される計算で問題解決する方式である『アルゴリズム』と対立する概念となります。
『利用可能性ヒューリスティック』は『ヒューリスティック』の種類の一つに位置付けられます。
※『ヒューリスティック』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
自身の経験や先入観などに基づく直感が、意思決定に影響を与える『ヒューリスティック』。発生するメカニズムやメリットとデメリット、代表的な種類、活用シーン、注意点について解説しています。
『利用可能性ヒューリスティック』が発生するメカニズム
上述の通り、どんな些細なことでも「決断する」のは、脳に対してストレスや認知的負荷を課すことになります。
本来は、意思決定をする際には、ありとあらゆる可能性・選択肢を検討して最適な答えを決めることがベストといえますが、そのためには都度、膨大な時間を要してしまいます。
なので、人間は『利用可能性ヒューリスティック』を含めた2つの思考方法のどちらかを、無意識のうちに選択しています。
『アルゴリズム』
1つ目の思考方法は、『アルゴリズム(algorithm)』です。
論理的かつ理論的に「正しい」と思われる可能性・選択をして意思決定を行う方法のことです。
『ヒューリスティック』
ですが、通常時はより直感的に意思決定をする『ヒューリスティック』を用いる傾向があります。
『ヒューリスティック』を用いて意思決定をする方が、『アルゴリズム』を用いるよりも、反射的に素早い意思決定が可能になるからです。
そして、その『ヒューリスティック』の中でも、自身の過去の経験や印象的な記憶、近しい人の口コミや見聞きしたニュースなどの情報を基準とする『利用可能性ヒューリスティック』によって「決める」わけです。
『利用可能性ヒューリスティック』の例
『利用可能性ヒューリスティック』は、日常生活から個々人の価値観まで幅広く影響を及ぼしています。
天候不良の日に「今日も運転見合わせだろう」と予測する
よく乗車する路線の電車が、天候不良時に「運転見合わせ」になることを何度も経験していると、天候不良の日には直感的に「今日も運転見合わせだろうな」と予測する。
体調を崩すと感染症が流行っていると思い込む
自分がコロナウイルス感染症やインフルエンザに感染した際に、「最近、流行している」と思い込む。
「自分ばかり家事をしている」と双方が思い喧嘩に発展してしまう
例えば夫婦で家事を「気づいた方がやる」とルールを決めている場合。
「自分の方が家事をしている」と、自身の経験を偏って重視する『利用可能性ヒューリスティック』に陥っていると、自分が家事をしてばかりと思い、相手がしてくれたことに感謝しなくなるため、喧嘩に発展しやすくなってしまう。
自分自身の価値観が周辺情報によって形成してしまう
自分自身の世代観や、ジェンダー観、政治や宗教観という価値観にも、知らず知らずのうちに『利用可能性ヒューリスティック』が影響を及ぼしているかもしれません。
これらの価値観を形成する際に、周囲の人の言動やマスメディアなどが発信する情報によって影響を受け、気づかないうちに特定の思想に傾倒してしまう可能性があります。
特にマスメディアやSNSは、センセーショナルな事件や社会問題を過剰に(頻繁に)取り上げる傾向があります。
すると、その情報を受け取った側は「最近は物騒な事件や社会問題が頻発している」と、実際に起きている件数よりも多く感じやすくなってしまいます。
法務省が公開している犯罪件数の推移を実際に見てみると・・・
平成2年(1990年)~令和元年(2019年5/1~12/31)の「刑法犯(窃盗)(窃盗を除く刑法犯)」それぞれの認知件数をみてみると、ともに平成10年代をピークに減少傾向が続いています。
次に、平成16年(2004年)~令和元年(2019年5/1~12/31)の「特殊詐欺の認知件数」をみてみると、平成23年(2011年)頃から再び増加傾向に転じていますが「過去最大」の件数とは言えません。
さらに、最近SNSの『X』で目立つ外国人の犯罪を「来日外国人の検挙件数」でみてみると、平成17年(2005年)頃をピークに減少し、令和2年(2020年)には鈍化傾向が続いており、増えているとは言えません。
※法務省:令和3年版犯罪白書 第4編/第9章/第2節(64ページ)
言わずもがなですが、これらの統計データはリアルタイムではないため、直近の数値では異なる傾向が生じている可能性も十分にあります。あくまで「法務省が公開している統計上ではこういった傾向がある」ということです。
前述の統計データをみると、マスメディアやSNSで注目されている犯罪すべての件数が増加しているとは言えません。
ですが、『利用可能性ヒューリスティック』の影響によって、実際よりも悲観的に社会情勢を捉える人が多いことが指摘されています。
『利用可能性ヒューリスティック』のビジネスへの活用例
『利用可能性ヒューリスティック』は、人間の経済活用における「意思決定」に大きく関わるため、行動経済学やマーケティングにおいて活用されています。
何気なく見たCMがきっかけで購入する
まだまだ他の広告と比べて費用がかかるテレビCMですが、この広告手法においても『利用可能性ヒューリスティック』による購買決定を促しています。
例えば、複数の商品がある中でどれを買おうか迷った際、もしくはテレビCMで見た商品に興味を持った際に『利用可能性ヒューリスティック』による直感的判断によって購入しやすくなる効果が見込まれます。
ちなみに、何度も接触することによって購入を促す『ザイオンス効果(単純接触効果)』が『利用可能性ヒューリスティック』を誘発する、と捉えることができます。
※『ザイオンス効果』(単純接触効果)の詳細については、こちらのページをご覧ください。
接触回数を増やすことで興味関心や好感度が高まりやすくなる『ザイオンス効果』。どういったメカニズムなのか、ビジネスでの活用例を解説しています。
レビュー・口コミ評価が高い=良い商品と思う
「口コミサイトやレビューサイトで評価が高ければ、良い商品・サービスだ」と考えるのも、『利用可能性ヒューリスティック』の直感的な判断によるものと捉えることができます。
こういった心理傾向は『ウィンザー効果』と類似した事象と言えます。
※『ウィンザー効果』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
最初に与えられた情報(アンカー)によって意思決定に影響を及ぼす『アンカリング効果』。ビジネスシーンでの活用例や注意点について解説します!
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この続きでは、『利用可能性ヒューリスティック』によって生じる悪影響を防ぐ方法について解説しています。
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