新商品やサービスの市場への参入期に競合よりも相対的に「低価格」に設定してシェア拡大やユーザー数獲得を狙う
『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』。特徴とメリットや『ペネトレーションプライシング』の実践事例、3段階のフロー、
戦略を成立させるための4つの条件、『スキミングプライシング』『ダイナミックプライシング』との違いなどについて解説しています。
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『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』とは?

マーケティング戦略を具体化するためのフレームワークとして知られている『4P分析』を構成する要素の一つである「価格(Price)」。
商品やサービスを販売する際、成功するかを左右する重要な要素の一つが「価格設定(値決め)」です。
この「値決め」は、特に新商品や新規市場への参入を検討する際に頭を悩ませるものになってしまいます。
そんな時に有効な「価格戦略」の一つとして知られているのが『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』です。
※『4P分析』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
4P~『何を』『いくらで』『どこで』『どうやって』~ マーケティング界隈でよく耳にする「4P」とは、1960年代前半にアメリカの経済学者であるジェローム・マッカーシーが提唱した、Product(商品)、Price(価格) …

『ペネトレーションプライシング(Penetration Pricing)』とは、新商品やサービスの迅速な市場シェア拡大やユーザー数獲得を目的に、導入期・参入期に競合よりも相対的に「低価格」を設定する戦略のことです。
ペネトレーションという「浸透」とプライシングという「価格設定」を組み合わせた言葉で、日本語では『市場浸透価格戦略』と呼ばれています。
初期の利益を犠牲にし、圧倒的な市場シェアを迅速に獲得して「成長カーブ」に乗せることを目的とするため、収益化のための「値上げ」と「コスト回収」のタイミングの見極めが重要になる戦略です。
「低価格」で広く普及させ、タイミングを見計らって「収益化(値上げ)」することから、『アップセル戦略』と近しい概念と言えます。
※『アップセル戦略』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
顧客に対してより高額な「上位商品・サービス」の購入を促すことで、収益を増やす手法である『アップセル』。メリットと実際のビジネス例、アップセルが起こる心理的要因、『クロスセル』との違いについて解説しています。
『ペネトレーションプライシング』の特徴とメリット

『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』によって得られるメリットは主に以下の点が挙げられます。
- 低価格に設定することで利用のハードルを下げて早期に顧客・シェアを獲得。
- 販売数量が増加することで、生産・調達コストを低下させ、利益率を向上させる土台を構築する「規模の経済(量産効果)」が効果的。
- 低い価格設定によって「参入障壁」を高め、競合他社が追随しにくい状況を作り出す。
- 「低価格戦略」となるため、事前にプランを立てておかなければ「採算割れ」もありうる。
- 多くの場合、商品やサービスの「品質は僅差」であり、「中長期的には収益化」する。
『ペネトレーションプライシング』の実践事例

この『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』は、以下のさまざまなビジネスにおいて実践されています。
- ゲーム機(PlayStationシリーズやSwitch)
- 「プリンター」や「ひげ剃り用カミソリ」
- 日用品・消費財
- iPhone
- 楽天モバイル
- フードデリバリーサービス(Rocket Now)
- 決済サービス(PayPay)
- SNS(LinkedIn)
- パソコン(DELL)
- SaaS(クラウド型ソフトウェア)
- インバウンド観光客
- 生成AI
ゲーム機(PlayStationシリーズやSwitch)

『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』の典型的な例として挙げられるのが「ゲーム機」。
ソニーのPlayStationシリーズや、任天堂のSwitchなどのゲーム機本体のハードウェアは、数千万台規模の生産体制を構築するため、発売当初は「売れれば売れるほど赤字の逆ざや状態」ですが、普及が進めば「量産効果」でハードウェアの原価は低減していきます。

そもそも「据え置き型」のゲームは、ゲーム機本体(ハードウェア)が普及しなければソフトウェアの販売を伸ばすことができません。
そのため、競合企業よりも早くシェアを獲得するために、各社は「逆ざや」となる価格設定をしてでも、ゲーム機本体というハードウェアの普及を進めようとするのです。
「プリンター」や「ひげ剃り用カミソリ」

「ゲーム機」と似た例として、本体を「低価格」に設定して普及させ、消耗品で継続的に利益を得ているのが、「プリンター」や「ひげ剃り用カミソリ」です。
「プリンター」や「ひげ剃り用カミソリ」という本体を「低価格」にして初期導入のハードルを下げて顧客を囲い込み、それらを使用する際に必要な消耗品を高価格に設定することでトータルの利益を確保しているのです。
ちなみに、この消耗品で利益を回収するビジネスモデルのことを『ジレットモデル(レーザー&ブレードモデル)』と呼びます。
※『ジレットモデル(レーザー&ブレードモデル)』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
BtoBマーケティングの手順・進め方の一例 BtoB領域の事業会社でマーケティングプランを立てる際、前年の方針や施策をベースに組み立てることが多いかと思いますが、しっかりと一定の根拠をもって戦略を立案し、それに基づいて戦 …
日用品・消費財

消費者が日常的に購入することから、大量生産・大量販売によるコスト削減(規模の経済)が見込めるため、「低価格」でも利益を確保可能な構造を作りやすいマーケットと言えます。
iPhone

携帯電話・スマホ業界で有名なのが、ソフトバンクが日本で販売開始した際の「iPhone」。
日本で初めて販売した2008年7月、ソフトバンクは他社に先駆けて「低価格な料金プラン」を導入しました。
これによって、多くのユーザーを獲得し、それまでNTTドコモや au が占めていた携帯電話市場のシェアを急速に拡大することに成功しました。
楽天モバイル

携帯キャリア事業への新規参入時、楽天モバイルは月額¥2,980(税別)で5Gのデータ通信が使い放題になるプラン「Rakuten UN-LIMIT」を発表し、大きな話題を呼ぶことになりました。
「低価格」を武器に、短期間で大量の契約者を獲得することを狙い、『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』を取り入れたのです。
フードデリバリーサービス(Rocket Now)

フードデリバリーサービスも、『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』を積極的に実践しているビジネスと言えます。
特徴的なのが、「配送料・サービス料無料」という業界の常識を打ち破るような手法を展開しているロケットナウ(Rocket Now)です。
その背景には運営元である韓国の巨大EC企業であるクーパン(Coupang)が、日本のフードデリバリー市場でのシェア獲得を目的にして『ペネトレーションプライシング』によって赤字覚悟の先行投資を行っているのです。
決済サービス(PayPay)

決済サービスでも、『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』を採用しています。
特にサービス開始時のPayPayでは、莫大な販促費と決済手数料を無料にしてユーザー・加盟店を爆発的に集めることに成功しました。
『ペネトレーションプライシング』によって競合に対する「参入障壁」を築き、現在では決済手数料は業種や条件に応じて1.6%もしくは1.98%に設定され、店舗(加盟店)が負担しています。
SNS(LinkedIn)

世界で13億人以上が利用している世界最大級のビジネス特化型SNSである「LinkedIn(リンクトイン)」。
2003年5月にサービス開始した当初は「基本無料」でしたが、現在では転職・求職者向けの個人プラン「Premium Career」は月額:約39.99ドル(約¥6,500)、セールス向けの「Sales Navigator Core」は月額:約99.99ドル(約¥16,200)まで引き上げられています。
パソコン(DELL)

2000年前後にパソコン市場へ参入した際、『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』を実践したのがデル(DELL)です。
デル(DELL)は、直販と受注生産方式を背景に、高品質なパソコンを「低価格」で提供しました。
当時、小売店経由で販売していたIBMやHP、NECや富士通などがデル(DELL)の価格に追随できない間に、マーケットシェアを急上昇させました。
SaaS(クラウド型ソフトウェア)

クラウド上のソフトウェアをインターネット経由で利用する仕組みである『SaaS(Software as a Service)』。
音楽・動画配信サービスといった身近なツールから、会計ソフトや勤怠管理システムなど、さまざまなサービスがあり、一度導入すると他社サービスへの乗り越えに手間やコストがかかるのが特徴です。
その多くが「無料」もしくは「低価格」で大量の顧客(初期ユーザー)を獲得し、利用データや顧客基盤(LTV:顧客生涯価値)を蓄積した上で、段階的な値上げや有料オプションで収益化を図っています。
※『SaaS』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
働き方改革やDXの推進手段の一つとして有効なSaaS。どんなSaaSサービスがあるのか、メリットとデメリットを解説しています。
インバウンド観光客

日本のファンになってくれた「円安」下でのインバウンド観光客も、結果的に『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』が生じているケースと言えます。
「円安」によってインバウンドの外国人観光客が増えれば、その中の一定数が「日本の良さ」を知りファンになってくれます。
以降、「円高」になったとしてもファンになってくれた外国人は来日してくれるはずです。
つまり、外国人にとって「円安」という「低価格」状態をフックに来日し「日本の良さ」を知る、その後「円高」になったとしても、ファンは日本に観光に来てくれる、というわけです。
※残念ながらインバウンド観光客が増えることで、さまざまな弊害が生じています。その弊害を意味する『旅の恥はかき捨て現象』の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
旅行先などで解放的になって、普段ならしないマナー違反や迷惑行為をしてしまう『旅の恥はかき捨て現象』。海外からのインバウンドだけでなく日本国内の観光客にも見受けられる現象です。この「観光公害」とも呼ばれるオーバーツーリズムの代表的な問題、なぜオーバーツーリズムが発生してしまうのか、4つの対策方法とすでに生じている弊害、求められる姿勢・態度などについて解説しています。
生成AI

現在進行形で『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』が進んでいるのが「AI」です。
作業の効率化や創造性が高まるなど、さまざまなメリットのある「AI:Artificial Intelligence(人工知能)」。
現在は「定額制・使い放題」のプランがほとんどですが、AIの稼働に必要なインフラコストが莫大であるため、従量課金制などへの「価格是正」は避けられないと言えそうです。
『ペネトレーションプライシング』を実施する際の「3つ」のステップ

『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』を進める際には、安易に「低価格」にして市場に投入するのではなく、以下の3つのステップを事前に設計することが欠かせません。

『ペネトレーションプライシング』を成立させるための「4つ」の条件

『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』は、ただ単に「低価格で売る」ということではありません。
商品やサービスを「低価格」で市場に投入してポジションを確保し、「獲得したシェアからどのように収益化へ移行するか」という出口戦略を事前に設計する必要があります。
- 市場が「価格弾力性」を有しているか
- 「規模の経済(量産効果)」もしくは「変動費率の低下」を確保できるか
- 赤字継続期間に耐えられる「資金力」があるか
- 競合が「低価格設定」に追随できない構造か
市場が「価格弾力性」を有しているか

価格を下げた際に需要が増加(市場が拡大)しなければ、「ペネトレーション(浸透)」効果は発揮せず、利益を削ることになってしまいます。
そのため、市場が「価格の変化」に敏感であるか、品質や規制、業界などの慣習によって商品やサービスの浸透が大きく左右されてしまうかどうかを事前に把握しておく必要があります。
「規模の経済(量産効果)」もしくは「変動費率の低下」を確保できるか

『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』を成立させるためには、「販売数量が増えるほど1件あたりのコストが下がる構造」も必要になります。
この「規模の経済(量産効果)」もしくは「変動費(仕入原価や材料費など売上に比例して増減する費用)率の低下」が実現しなければ、受注が増えるほど資金繰りが苦しくなってしまうのです。
赤字継続期間に耐えられる「資金力」があるか

コスト回収までの中・長期間の赤字に耐えることが可能な資金力も、『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』には欠かせない要素です。
利益が出るまでに資金が尽きてしまうと事業撤退しなければならなくなるので、少なくとも「12か月~18ヵ月」程度、赤字が継続したとしても資金繰りが維持できるかどうかを試算・想定しておくことが重要です。
競合が「低価格設定」に追随できない構造か

「低価格」によって競争が排除され、『ペネトレーションプライシング(市場浸透価格戦略)』を採用した事業者がポジショニングを維持できるマーケット構造かどうかも、必要な条件の一つです。
↓
この続きでは、『ペネトレーションプライシング』と
『スキミングプライシング(上澄み吸収価格戦略)』・『ダイナミックプライシング(動的価格設定)』との違いについて解説しています。
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