結果が起きた後に、あたかも知っていたと認識したり、予測が可能だったと当初の考えを修正する『後知恵バイアス』。
発生例や発生することによる弊害、発生する要因や抑制する方法などについて解説しています。
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『後知恵バイアス』とは?
『後知恵バイアス』とは、結果が起きた後に「そうだと思った」「だから言ったのに」など、あたかも知っていたと認識したり、予測が可能だったと当初の考えを修正する心理的傾向のことです。
事前に予測できることと、事後の結果を混同してしまうことで、予測できなかったことでも予測できていたかのように振る舞い、多くは威圧的な態度をとるようになります。
その結果に至るプロセスや戦略以上に「結果によって印象が左右される」のが、このバイアスの特徴です。
簡単に言い換えると、結果を知った後は、多くの人が「言いたい放題」になる、過去の結果が現在に影響を及ぼすという心理的傾向が『後知恵バイアス』です。
『後知恵バイアス』の実証実験
アガサ・クリスティー 氏 が執筆した作品数の予測
46名の実験参加者に、推理作家のアガサ・クリスティー 氏 が執筆した作品数を予測してもらいました。すると、実験参加者の平均は「51作品」でした。
後日、正解が「66作品」であると実験参加者へ伝え、自身が回答した作品数を思い出してもらったところ、参加者の平均は「63作品」まで上昇する結果となりました。
当初の回答を正解に近づけてしまうことになったという実験でした。
アメリカのリチャード・ニクソン大統領の訪中時の外交交渉内容
東西冷戦の最中で米中関係が悪化していた1972年、リチャード・ニクソン 氏 がアメリカ大統領として初めて中国に訪問することに注目が集まっていました。
そこで、訪中前に外交交渉されると想定される内容を15項目用意し、実験の参加者にそれぞれが実現する可能性を回答してもらいました。
会談の終了後、自分が予想した確率を思い出してもらったところ、ニュースで報道された内容については高い確率、それ以外の項目については低い確率を回答する結果となりました。
この、後に与えられる正解=情報に思考が寄せられる『後知恵バイアス』は、最初に与えられた数字などの情報(アンカー)が基準となって、商品の購入など、その後の物事の意思決定に影響を及ぼすバイアスである『アンカリング効果』(※)と類似したメカニズムと言えます。
※『アンカリング効果』の詳細については、こちらのページをご覧ください。
最初に与えられた情報(アンカー)によって意思決定に影響を及ぼす『アンカリング効果』。ビジネスシーンでの活用例や注意点について解説します!
つまり、事前に与えられる情報によって影響を受ける『アンカリング効果』と、逆に事後に与えられる情報が当初の判断に影響を及ぼすのが『後知恵バイアス』ということです。
『後知恵バイアス』の発生例
理不尽さや「後出しジャンケン」感が出てしまう『後知恵バイアス』の発生例は以下の通りです。
スポーツ観戦時に期待している選手が凡退
スポーツの観戦時に、自分が期待している選手が登場。
「よし、ここで決めてくれ!」と応援するも、思った結果が出なければ「チャンスに弱いんだよな」と手のひらを返してしまう。
事件発生後の近隣や関係者へのインタビュー
事件が発生した際、犯人が住む近所の住民や学生時代の関係者などへのインタビューで見かける「いつかあの人は〇〇すると私は思っていました」というコメント。
同時多発テロ事件の犯行前に事前訓練をしていた犯人
専門的な情報機関では、日常的に多くの情報を収集・分析しています。
2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件後に、「犯行の数か月前に犯人が飛行機の操縦訓練を受けていた」と報道されると、「テロの予兆が事前にわかっていたのに対処しなかった」と情報機関の不手際だと指摘されるケースがありました。
調査によると犯人が訓練を受けていたのは事実とのことですが、果たして訓練を受けていた段階でテロを防ぐことができたかというと疑問符が付きます。
仮に訓練を拒否していたとしたら、それはそれで別の問題に発展していた可能性も考えられます。
事後であれば「そのタイミングで訓練させなければこれほどの被害は出なかった」と言えるかもしれませんが、少なくとも犯人の訓練時に関わった人や情報機関に責任が無いことは、少し考えればわかることです。
同僚の「やらかすと思っていた」上司の「できると信じていた」
『後知恵バイアス』はもちろん、職場でも発生します。
例えば、仕事でミスやトラブルをしてしまった時に「いつかミス(トラブル)を起こすと思っていた」と言う同僚。
逆に、過程の段階では何も言わなかったのに、達成困難な目標をクリアした際に「私は達成できると信じていた」という上司。
どちらのケースも、良くも悪くも結果を知った後では、(自身を含めた)人間は世界観を修正してしまう『後知恵バイアス』にかかりやすい傾向があるのです。
『後知恵バイアス』による弊害
判断力や客観的に評価する力が低下してしまうことも
人間は、答えや結果という「過去」を先に知らされると考えることをやめてしまうため、「自分もそう思っていた」と思い込みをしてしまい、判断力や客観的に評価する力が低下してしまうことがあります。
結果から原因を推定するという「歴史から学ぶ」ことは、有効で正しい面もあります。
ですが、その事象の本質を見ることなく誤った判断をしてしまうリスクがあることも理解しておく必要があります。
「評論家」に変貌してしまう
過去の答えや結果を知った後では、当初の判断や決断を正しく思い出すことが難しくなることから、多くの人が「評論家」に変身しやすくなります。
アグレッシブな判断や行動を抑制してしまう
ビジネスシーンを例に挙げると、経営者やマネージャーが『後知恵バイアス』に陥ってしまうと、部下はプロセスや前提となる戦略以上に「結果」を過度に重視するようになります。
上長が過度に結果を重視するようになると、部下はアグレッシブな意思決定をすることに萎縮し、できるだけ失敗しないように判断・行動しようとし、「お役所仕事」のような新しいチャレンジをしなくなる傾向が生じます。
部下の立場からすると「ヘタに意思決定をして悪い結果になってしまうと叱責されてしまう。無難に前例を踏襲するか、マニュアル通りにやろう」と思うようになるわけです。
マーケティング領域の例を挙げると、「最終成果である売上」という結果を過度に重視している『後知恵バイアス』に陥った経営者・マネージャーの配下にいる従業員は、リスクのある意志決定をすることに萎縮して、チャレンジングな施策に手を出さなくなってしまいます。
その結果、これまでに実施した施策を無難に踏襲したり、コストをかけないなどリスクを回避した保守的な施策だけを行うことで、目指すべき成果をあげることができずに終わってしまう、というようなケースです。
訴訟リスクの高さが深刻な「なり手不足」を助長
この『後知恵バイアス』は、産婦人科医療でも深刻な悪影響を与えています。
2004年に福島県立大野病院で妊婦が死亡し、その妊婦の担当医が2006年に逮捕・起訴された大野病院事件は全国の産婦人科医を震撼させました。
その大野病院事件では、医療訴訟のほとんどが民事訴訟である中で、業務上過失致死などの罪状で刑事訴訟まで発展しました。
最終的には無罪となったものの、日常的に行なっている診療業務によって逮捕された事例として、この事件は多くの産婦人科医の心に刻まれることとなりました。
診療科目別での医師1,000人あたりの訴訟件数を見ると、産婦人科は形成外科(美容手術含む)に次いで2番目に訴訟が多い(※)とされています。
※世界トップクラスの安全性でも訴訟が多い?不足する産婦人科医師を取り巻く現状とその背景
訴訟リスクが高く過重勤務となる産婦人科医療を、医学部生や研修医は進路として敬遠する傾向があり、2014年10月に行われた調査では産科および産婦人科を掲げている病院数は1,361施設と過去最低を記録(※)しています。
※産科と産婦人科も医師不足に!影響と対策は?
近年、産科と産婦人科の医師数が減少しており、それにともなって産科・産婦人科を掲げる病院数も減少傾向にあります。 2014年10月に行われた調査によると、産
つまり、ほかの医療科目と比較して訴訟リスクが高く、民事訴訟だけでなく刑事訴訟にまで発展する「過去の結果」などがあることから、産婦人科医の減少傾向が続いているというわけです。
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